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「何やってるの、三人さん」
呆れた口調で声をかけられ、私は悲鳴を上げるところだった。さしもの麻子も肝を冷やしたようで、息を飲んで固まる。
振り向くと小牧教官がトレイを持って立っており、私たちにそのトレイを差し出した。トレイの上には室内の人数と同数の湯呑みが載っている。
「ほら、立ち聞きするならせめてお茶くらい出しておいで。タイミング計ればちょっとは中で話も聞けるでしょ」
「あたし。あたし行きます」
いいわね、と郁と私に言いながら麻子はさっさとトレイを受け取る。
中から来客の声が聞こえた。「今日伺いましたのは…」と本題に入る様子である。
麻子はタイトスカートを片手でなでつけシワをのばし、静かなノックをしてするりと中に入り込んだ。
麻子の楚々とした立ち振る舞いは室内の人々をまったく刺激しなかったらしく、「通り魔殺人の容疑者少年についてなんですが」という口上で始まった本題は麻子が入っても話が途切れなかった。
麻子が何気なくドアを閉め切らずに入ってくれたので、外で窺っている私たちにも話がよく聞こえる。
「いや、そのことについては」
「こちらでも色々と対応を検討しておりますので」
「図書館の対応を教育委員会は高く評価しております」
「は?」
「いくら重大犯罪を犯したといえど、容疑者は未成年です。人道的見地から言っても少年のプライバシーが無秩序に警察に流出されるべきではありません。少年の更生のためにも図書館は一時の安易な感情論に流されるべきではない」
この辺りで麻子が部屋を出てきた。「駄目、限界」と顔をしかめる。
「よく粘ったよ」
小牧教官が苦笑混じりに労う。
その隣でずっと耳をそばだてていた郁が眉をひそめた。
「どうして教育委員会が急に図書館の肩持つのよ」
「まあ、予想され得る範囲ではあったよね」
「そうですね」
訝しそうに郁が呟くと、小牧教官と麻子が納得したように頷いた。
『要するに、利害関係の一致だよ。少年の親が高校の校長先生だったし、教育委員会としては関係者の不祥事を庇いたいんだと思う』
「読書履歴なんか心証の参考程度にしかならないけど、それが裁判で響いてくるかもしれないからね」
私が郁ちゃんに説明すると、小牧教官も後に続くように口を添えてくれた。
図書館の非協力が批判され、館長代理を始めとする行政派が特例措置を画策している現状、教育委員会の原則支持の表明はいい牽制になる。
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アオイ(プロフ) - みさこさん» わあああ!!ありがとうございます!!返信遅くなってすみません、仲良くしてください!! (2020年3月9日 11時) (レス) id: deeb297800 (このIDを非表示/違反報告)
みさこ(プロフ) - 先程フォローさしていただきました。よろしくお願いします。V6大好き(女子)です (2020年3月5日 1時) (レス) id: 96340430ed (このIDを非表示/違反報告)
アオイ(プロフ) - かなとさん» ご指摘ありがとうございます。消したつもりになってました。申し訳ございません。すぐに消させていただきました。 (2019年8月3日 23時) (レス) id: deeb297800 (このIDを非表示/違反報告)
かなと - 編集画面の関連キーワード入力の下をよく読みオリジナルフラグをお外し下さい違反です (2019年8月3日 23時) (レス) id: 9ac913b464 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:アオイ | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/kuroki
作成日時:2019年8月3日 23時