316話 ページ17
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『美味しい…』
お兄さん特製のハンバーグはとても美味しくて、すぐに完食してしまった。
「食欲があるならよかったです。今日は早めに寝ましょう?包帯だけ巻き直すので、来てください」
食器をさげて、お兄さんはソファへ手招きする。
ソファに座ると、お兄さんは丁寧な手つきで包帯を巻き直してくれた。
『ありがとう…』
「…向こうの寝室のベッドを使ってください」
『…お兄さんは、まだ寝ないの?』
「…僕はまだ、やることがあるので」
独りは怖い。
一緒にいて欲しい。
その言葉を飲み込んだ。
お兄さんのこと、まだ完全に信用したわけじゃないけど、誰でもいいから今は傍にいてほしかった。
僕の体にぴったり合った衣服、2つずつ揃えられた食器や歯ブラシ。
大人の僕が、お兄さんと一緒にここに住んでいたのは本当らしい。
「…どうかしましたか?」
『…ううん、なんでもない…。おやすみなさい』
笑顔を作って、寝室へ入った。
どうやら大人の僕は、事故にあって記憶を失っているらしい。
僕が覚えているのは――…。
『……お父さん…?お母さん…?』
真っ赤な光景。
動かない体。
興奮した様子の男が持つ、真っ赤に染まったナイフ。
毎日のように、僕は知らない男につけられていた。
学校からの帰り道、必ずだった。
それを親に話すと、毎日母が迎えに来てくれるようになった。
仕事が早く終わった日は、父も一緒だった。
そんなある日、男は僕たち家族の前に姿を現した。
妖しく光る刃物をその手に持って。
父と母は僕を庇って、その刃に体を貫かれた。
何がなんだか分からなかった。
動かない両親の体を踏みつけながら、厭らしく嗤う男が赤く染まった手を僕に伸ばす光景を、一生忘れない。
“可哀想に”
“まだ幼いのに”
“誰が引き取るの?”
“私は嫌よ”
ヒソヒソと聞こえる声に耳を塞ぎたくなった。
父と母が眠る棺桶の前で、ぎゅっと拳を握り締める。
家族がいなくなった。
居場所が、なくなった。
どうして…、どうして僕を置いていくの…、ねぇ、お父さん、お母さん…。
…ああ、違う。
僕が…僕が殺してしまった。
僕があの男のことを話したから…僕の代わりに、死んでしまった――…。
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096 - ayumigomaさん» コメントありがとうございます!楽しんでいただけているようで嬉しいです!頑張ります!!これからもよろしくお願いします! (2019年6月7日 22時) (レス) id: d9ca70487a (このIDを非表示/違反報告)
ayumigoma(プロフ) - 楽しく読ませて頂いています。頑張って下さいね(〃ω〃) (2019年6月7日 0時) (レス) id: 364bfd5e94 (このIDを非表示/違反報告)
096 - りりこスタイルさん» ありがとうございます!これからも楽しんでいただける小説を書きたいと思いますのでよろしくお願いします! (2019年6月4日 12時) (レス) id: d9ca70487a (このIDを非表示/違反報告)
りりこスタイル - いつも楽しませてもらってます。これからも応援してます。続き楽しみです! (2019年6月3日 22時) (レス) id: b80200442e (このIDを非表示/違反報告)
096 - シズキさん» そこまで言っていただけるとは…!本当に嬉しいです!!これからも、飽きさせてしまわないよう、試行錯誤して書いていきますので、よろしくお願いします!こちらこそありがとうございます!! (2019年6月3日 22時) (レス) id: d9ca70487a (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:096 | 作成日時:2019年5月23日 22時