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「やはり良く似合っている」
雑踏に目を向けると一際美しい男が居た。
雪夜に映えるその美しい黒髪と今宵の月のように白い肌はまるでこの世のものでは無いかのような眩さでAはゴクリと生唾をのんだ。
「むざ....っ!」
男は女の唇に触れ、目線だけキョロキョロ動かし周囲の様子を伺う。
「月彦と」
「あっ」
考えが至らなかったとAは思った。
何処に鬼狩りが居るかも分からぬこのような処で呑気に「無惨様」と呼んだが最後、どうなるかは目に見えている。彼が負けるとは思えないけれど、まず100パーセント彼とは引き離されるだろう。
鬼殺隊に身柄を確保されるか、それとも目の前の男に躊躇う事なく命を奪われるか。
「行きましょう、Aさん」
「はい、月彦さん」
高圧的な普段の彼からは想像もつかないくらい優しい声色と穏やかな表情だった。
ーーーー
あるものに視線を奪われたAはぴたとその歩みを止める。どうした事かと無惨が彼女の視線の先を見ると、赤い眼をしたヤマドリの帯留めがあった。他にも可愛らしい品は幾らもあったというのに、彼女は真剣に其れを眺めている様だ。
銀製の其れの赤い眼は紅玉であろうか、店内の光をうけキラリと美しい輝きを放っている。
「月彦さんの瞳のようね」
屈託なく女が笑った。久方ぶりに見るビー玉のように澄んだ瞳であった。そうか、この女はこのようにして笑うんだったなと再確認した無惨は呆然とその顔を見つめた。
急に黙り込むもんだから、また変なことを言ったのかしらとみるみるうちに女の顔が赤くなる。
口に出さずとも表情で手に取る様に心模様が分かるとは面白い奴よの、と無惨は思った。
「飽きぬ女だ」
「う.....馬鹿にして....」
もごもごと喋る女の手を取り無惨は店内に足を踏み入れた。
「ご主人、向こうにあるヤマドリの帯留めを1つ頂こうか」
「其れはお目が高い、少々お待ちを」
「つ、月彦さ...いただけないわ、あんな高価な品..」
「先程も言ったろう、美しい者は一流を身に纏うべきだ」
店内にいる女性達のザワつく声が聞こえた。
そりゃそうだ、こんな美しい男の人を直に目にしてしまったら誰も目を離すことは出来ないだろう。
「いやあそれにしてもまるで絵巻から出てきたかの如くお美しい2人だ」
「ははは、口が上手いですなご主人」
「いえいえ本心でございますよ、まるで光源氏と紫の上の様だ」
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舞(プロフ) - 更新頑張ってください^_^ (2021年2月9日 0時) (レス) id: e826140184 (このIDを非表示/違反報告)
麗(プロフ) - 続きを楽しみにしてます!! (2020年11月8日 13時) (レス) id: 411fa15fdd (このIDを非表示/違反報告)
ぼたんあめ(プロフ) - この小説とっても好きです!更新応援してます♪ (2020年10月27日 7時) (レス) id: 07fb25626d (このIDを非表示/違反報告)
えむ(プロフ) - 初めまして突然すみませんこちらのお話読ませていただいたのですが見ていてとても続きが気になりました!更新頑張ってください、楽しみにしています! (2020年2月1日 20時) (レス) id: 41deac151f (このIDを非表示/違反報告)
カオリ(プロフ) - 無限城が無惨城になってますよ。気になってしまってすみません。 (2019年11月16日 23時) (レス) id: f2976f8dda (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:旧華 | 作成日時:2019年11月2日 0時