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目を覚ますと、もう隣に彼の姿は無かった。
ベットは随分と冷たい、居なくなってから随分と時間が経っている様だ。
「する事だけして居なくなってしまうだなんて、薄情な人」
誰もいない部屋でこんな事を呟いた所で無意味だが、言わずにはいられなかった。
滑らかな動きでベットから起き上がったAは、慣れた手つきで着物の着付けを始める。
ーーーやけに襖の向こうが賑やかだ。
着付けを終え、高い位置で止めていた髪をほどいた彼女は、そっと襖に手をかけた。
ベベン
一つ、琵琶の音が鳴ったと思えば、部屋が変わる。
「A」
「おはようございます、無惨様。あの方達は?」
私の部下達だと静かに告げた無惨様は、私の方を向くことも無く、薬品を弄りつづけている。
目線を移せば、そこには童磨さんの姿もあった。
ばちりと目が合うと、にこりと笑った彼はヒラヒラと私に向け手を振ってくれた。
ぞくり
何か得体の知れない、禍々しい視線を感じたAの、全身の毛が粟立つ。
その視線の方へ視線をうつせば、今まで見た中でも頭一つ以上抜けた美しさを持つ女が、首を傾げ下から彼女の事を睨めつけていた。
とてつもない恨みの篭もった視線だ。
だが、そんな視線を向けられる様な覚えは一切無い。
「無惨様、彼女が仰っていた人間の娘ですかな?」
玉壺がそう問えば、無惨は黙って頷いて見せた。
「これはこれは、随分と美しい顔をした人間だ」
壺から身を伸ばしAの顔見つめた玉壺は、ヒョヒョッと変わった笑い方をして見せる。
「初めまして、Aと申します、素敵な壺ですね、貴方のお名前はなんと仰るのですか?」
奇っ怪なその容姿に怯むどころか、壺を褒め讃えたAはニコリと笑みを浮かべて見せる。
壺を褒められた玉壺は、自分の名を名乗り上機嫌で身体を壺の方へ縮めた。
「へえAって言うのね、アンタ」
間合いを詰めた堕姫は、品定めする様にじっくりとAを見た。
シミ一つないキメ細やかで陶器のような肌、びっしり隙間なくはえた長い睫毛に囲まれた黒目がちな瞳、血色の良い唇、烏の濡れ羽色をした滑らかな髪。
童磨の言う通り、確かにAは醜女とはかけ離れた容姿を持っていた。
だが彼女のその美しい容姿が、尚更堕姫のプライドを傷つけた。
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舞(プロフ) - 更新頑張ってください^_^ (2021年2月9日 0時) (レス) id: e826140184 (このIDを非表示/違反報告)
麗(プロフ) - 続きを楽しみにしてます!! (2020年11月8日 13時) (レス) id: 411fa15fdd (このIDを非表示/違反報告)
ぼたんあめ(プロフ) - この小説とっても好きです!更新応援してます♪ (2020年10月27日 7時) (レス) id: 07fb25626d (このIDを非表示/違反報告)
えむ(プロフ) - 初めまして突然すみませんこちらのお話読ませていただいたのですが見ていてとても続きが気になりました!更新頑張ってください、楽しみにしています! (2020年2月1日 20時) (レス) id: 41deac151f (このIDを非表示/違反報告)
カオリ(プロフ) - 無限城が無惨城になってますよ。気になってしまってすみません。 (2019年11月16日 23時) (レス) id: f2976f8dda (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:旧華 | 作成日時:2019年11月2日 0時