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「傷は痛むか」
「はい?」
唐突な質問に間抜けな声が出た。
何をわかりきったことを言っているんだと心の底から思う、こんなにも見境なく噛み跡を残され痛くないはずがない。
「傷は痛むかと聞いている、何度も同じことを言わせるな」
何故からはこう高圧的なんだろうか。
そう思いつつも、Aは静かに口を開く。
「お気になさらないで下さい、無惨様」
「待て」
さらりと返答し、その場を立ち去ろうとした彼女の腕を掴んだ無惨は不機嫌そうな顔をしてAを見つめた。
「何故その名で呼ぶ?」
「おかしな事を仰るのね、皆そう呼ぶじゃありませんか」
ばさりと言い捨てたAの表情はかたい。
彼女の中で、出会った当初、己を助けてくれた月彦と、怒りのまま自分の身体を犯した無惨はまるで別の人間だと認識したかった。
せめて、思い出だけは美しいまま残しておきたかったのだ。
そうでもしないと、とてもじゃないがやりきれなかった。
「いちいち腹立たしい女だ」
そう呟いた無惨は、掴んだ腕を離すこと無く自室へと連れ込んだ。
「っ、い、た.......!」
薬箱から消毒を取り出した無惨は、無言で彼女の足元を手当し始めた。
手馴れた手つき、白く細い指が己の足に触れる度、先程の事が思い出され。火を吹きそうな程に顔が熱くなった。
「.........どういう心情の変化ですか?」
「五月蝿い、静かにしていろ」
更に彼の事が分からなくなった。
冷酷非道で血も涙も無いのかと思えば、こうしてさり気ない優しさを見せてくれる。
いや、たんなる暇潰しか気まぐれだろう。
「無惨様」
「なんだ」
「何故私を殺さなかったのですか」
ピタリと彼の手の動きが止まった。
彼のあの発言でわかった、他人の命を奪うことに対しなんの抵抗も無いこの男が、何故私の命を奪わず生かしておいたのか、それがずっと頭に引っかかっていたのだ。
「殺されたかったのか?」
ニヤリと口元に笑みを浮かべる男は、その長い指を彼女の首元に這わせた。
だが、先刻のような溢れでんばかりの殺意を感じ取らなかったAは真っ直ぐ無惨を見つめ続ける。
「本気で殺す気なんて無いですよね?」
「.....つまらない女だ」
首から手を離した無惨は、再度彼女の怪我の処置に取り掛かるのだった。
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舞(プロフ) - 更新頑張ってください^_^ (2021年2月9日 0時) (レス) id: e826140184 (このIDを非表示/違反報告)
麗(プロフ) - 続きを楽しみにしてます!! (2020年11月8日 13時) (レス) id: 411fa15fdd (このIDを非表示/違反報告)
ぼたんあめ(プロフ) - この小説とっても好きです!更新応援してます♪ (2020年10月27日 7時) (レス) id: 07fb25626d (このIDを非表示/違反報告)
えむ(プロフ) - 初めまして突然すみませんこちらのお話読ませていただいたのですが見ていてとても続きが気になりました!更新頑張ってください、楽しみにしています! (2020年2月1日 20時) (レス) id: 41deac151f (このIDを非表示/違反報告)
カオリ(プロフ) - 無限城が無惨城になってますよ。気になってしまってすみません。 (2019年11月16日 23時) (レス) id: f2976f8dda (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:旧華 | 作成日時:2019年11月2日 0時