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烏の濡れ羽色をした髪を細い指で耳にかけた彼女は、庭の薔薇を手折りほう、とその美しさに溜息をついた。夜露に濡れた真紅の花を月に翳し「綺麗」と声を漏らした彼女の唇は花の花弁同様紅く艶やかである。
「お嬢様!嗚呼、こんな所にいらっしゃったんですね」
「....ねえ見て、今日は満月なの、より一層此の薔薇園の美しさが映えると思わない?」
「お嬢様」
「地面に座り込むだなんてはしたない、さあ、お屋敷にお戻りくださいませ」
感情を一切読み取れぬ抑揚の無い声でそう告げられた彼女は、表情を変えず立ち上がり、召使の顔を一切見ることなく歩き出した。
「旦那様が酷く心配しておられました、夜に1人で出歩くのはお辞め下さい」
「お庭の散歩位で大袈裟なのよ、お父様は」
「大袈裟なものですか、こんな月の綺麗な夜は鬼が出るのですよ」
ーーーーーーーー
「夜風で冷えましたでしょう?湯を溜めてあるのでゆっくりとおくつろぎ下さい」
「ありがとう」
屋敷に入った瞬間、掌を返すように態度を変える召使に、内心嫌な人ね、と悪態をつきながらも笑みを浮かべ長い廊下を歩く、埃ひとつ無い掃除の行き届いたこの空間を歩く度に、『完璧』で居ることを常に求められているような気分になり息が詰まる。
「A!ああ、こんなに冷たく冷え切って...外は寒かっただろう」
「お父様、ごめんなさい」
「いやいいさ、お前が無事なら私はもう、何も望まないよ」
なんて大袈裟な言葉。
......とは思わない、お父様がこんな事を言う理由を私はよく分かっているから。
「ああそうだ、Aに良い知らせがあるんだ」
「なんですの?お父様」
一変して顔色が明るくなった父の機嫌を取り繕うかのように笑みを浮かべる。
まるで興味があるかのような口振りで問い掛けてみた私に、父は全く声色を変えず、上機嫌で
「お前の嫁ぎ先が決まったんだ」
そう言った。
「お前は幼き日から器量が良かったからな、嫁にと望む者が多く選ぶのに時間がかかってしまったがようやく私は決めたぞ。家柄も良く頭の良い男だ、これでお前の幸せは約束されたも同然だし、我が一族も安泰だ」
上機嫌で父は語る。
ーーーー貼り付けた笑顔の下。
まるで氷の大地にでも居るのかのように
心が凍えていくような錯覚に私は陥った。
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舞(プロフ) - 更新頑張ってください^_^ (2021年2月9日 0時) (レス) id: e826140184 (このIDを非表示/違反報告)
麗(プロフ) - 続きを楽しみにしてます!! (2020年11月8日 13時) (レス) id: 411fa15fdd (このIDを非表示/違反報告)
ぼたんあめ(プロフ) - この小説とっても好きです!更新応援してます♪ (2020年10月27日 7時) (レス) id: 07fb25626d (このIDを非表示/違反報告)
えむ(プロフ) - 初めまして突然すみませんこちらのお話読ませていただいたのですが見ていてとても続きが気になりました!更新頑張ってください、楽しみにしています! (2020年2月1日 20時) (レス) id: 41deac151f (このIDを非表示/違反報告)
カオリ(プロフ) - 無限城が無惨城になってますよ。気になってしまってすみません。 (2019年11月16日 23時) (レス) id: f2976f8dda (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:旧華 | 作成日時:2019年11月2日 0時