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「なんだと?」
黒髪から覗く男の眉が怪訝そうに歪められた。
A自身も無意識に声を漏らしていたようで、はっと声を詰まらせる。
ーーーーーこんな時に私は一体何を言っているの。
こんな生きるか死ぬかの、瀬戸際だというのに。
身体が触れ合いそうで触れ合わないこの距離に、私は早くなる胸の鼓動を抑える事が出来ずにいた。
異常だとしか言い様がない、だってこの胸の高鳴りは恐怖じゃない。
「とても正気とは思えん発言だな、気が気ではないとしか言い様がない」
「.....私もそう..思います、っ...恐怖を感じていないと言えば嘘になります、でもそれ以上に.....私、貴方が鬼だと知っても尚、胸の高鳴りを抑えられずにいるのです」
「愚かな女だ」
蔑むように投げ捨てられたその声色はとても冷たい。
すっと伸びた月彦の白い指が、Aの髪を撫ぜる、絡まることなくするりと指の隙間を抜けた髪がはらはらと彼女の胸元へと滑り落ちる様を、彼はただ黙って見つめていた。
「A、お前はとても甘い香りがするな」
そっと彼女の耳に艶やかな黒髪をかければ、その白い首筋にそっと月彦は顔を寄せる。
「ひゃ..っ、つ、つきひこさ.....っ」
「甘くて甘くて」
ーーーーそして
「気が狂ってしまいそうだ」
つぷり、とその白い柔肌に牙を突き立てた。
「いッ〜!?う、ッッッああ!!」
突如首筋に走った激痛にAの目が大きく見開かれる。じわじわ全身に広がる痛みに身を捩り必死に抵抗するが、両手を掴まれしまえ何も成す術がない。
彼女の血液を嚥下した月彦は、その想像以上の味にほんの一瞬理性を失いかけた。
このまま全て余すこと無く己の胃袋に収めてしまいたい。
そんな衝動を必死に理性で押し込め、牙を引き抜く。
「安心しろ、お前を喰らうつもりは無い。ーー今の所は、な」
そんな言葉に安堵したのか、腰の抜けたAはずるずるとその場に崩れ落ちた。
突き立てられた牙の深さはそれ程深くは無かった為、大事には至らなかったが、熱を持ちじんじんと痛む患部のせいで、嫌。おかげで頭がとてもクリアになった。
「先刻お前は言ったな?お傍に置いてください、後悔はありません、と」
「ひ...っ」
「今更その言葉に二言は無い、そうだろう?」
彼は天使の皮を被った悪魔だ。
とびきり美しい容姿で人を惑わせ、喰らう。
「喜べ、可愛がってやろう。私が飽きるまでな」
綺麗だった月が
今は もう 見えない。
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舞(プロフ) - 更新頑張ってください^_^ (2021年2月9日 0時) (レス) id: e826140184 (このIDを非表示/違反報告)
麗(プロフ) - 続きを楽しみにしてます!! (2020年11月8日 13時) (レス) id: 411fa15fdd (このIDを非表示/違反報告)
ぼたんあめ(プロフ) - この小説とっても好きです!更新応援してます♪ (2020年10月27日 7時) (レス) id: 07fb25626d (このIDを非表示/違反報告)
えむ(プロフ) - 初めまして突然すみませんこちらのお話読ませていただいたのですが見ていてとても続きが気になりました!更新頑張ってください、楽しみにしています! (2020年2月1日 20時) (レス) id: 41deac151f (このIDを非表示/違反報告)
カオリ(プロフ) - 無限城が無惨城になってますよ。気になってしまってすみません。 (2019年11月16日 23時) (レス) id: f2976f8dda (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:旧華 | 作成日時:2019年11月2日 0時