火、燃ゆる 2 ページ49
休日の夕飯には他の四人もいたがおそ松はいつも遅くまで帰ってこなかった。みんなが寝静まる夜中に帰ってきて自分の分の夕飯を温めて一人食べるのだった。
オレは時々、おそ松の跡をつけた。おそ松はいつも路地裏に入っていって、他校の生徒と喧嘩をしていた。
自分の尾行スキルが高いとは思えなかったが、一度もオレは気づかれたことがなかった。
おそ松はすごく喧嘩が強かった。中学ではよく六人で乱闘していたが気づけなかった。
オレや十四松みたいに力が強いわけでも、チョロ松みたいに素早いわけでも、一松やトド松みたいに頭脳戦ができるわけでもなかったが、おそ松はとにかくセンスがあった。
力の入れ方、立ち居振る舞い、殺気、全てがまさに別格。
二十分もしないでおそ松の周りには他校の奴らが倒れる。おそ松の喧嘩している姿はかっこよかったが、オレが一番憧れたのが喧嘩が終わった後の煙草を吸う姿。
灯る火、煙を出す煙草、気怠げなおそ松の表情。
隣にチョロ松がいなくなって、オレは、いつかおそ松の隣に立ちたいと思ったんだ。
.
ベランダに出ると冷たい風が途端にカラ松を襲ってくる。
目の前には煙をふかすおそ松。カラ松はおそ松の左隣に立つと自分も電子煙草を取り出した。水蒸気が空に舞い上がる。
目の前の薄暗い町並みをぼんやり見ていたおそ松がカラ松に気づき笑いかけた。
「なあに、お前も来たの？」
「ああ」
二人は黙って吸い続ける。
ちらり、とおそ松の横顔を盗み見る。中指と薬指で煙草を挟み、顔を覆うようにふかしている。
高校のときと重なる。思わず見とれてしまう。と、おそ松が眼下の町を眺めながら喋り始めた。
「……昔さ、俺が荒れてた頃、お前よく俺のこと気にかけてくれたよな。あれすげえ嬉しかった」
「うん」
「あと、お前よく俺の喧嘩見に来てたよな。煙草吸い始めたのって俺に憧れたから？」
「え」
気づかれてたのか、と狼狽える。そんなカラ松を見てふ、とおそ松が笑う。
次の瞬間、カラ松の顔に煙を吹きかけた。
煙を吸い込んで噎せる。やられたことが理解できない。
今自分は何をやられたんだ？ 煙草の煙を吹きかける意味。それは。
理解して瞬時に顔が赤くなる。おそ松が「じゃあなー」と部屋の中に戻っていく。慌てて声をかける。
「えっ、いつから！？ てか、抱かれるのはお前だろうおそ松！」
あはは、というおそ松の笑い声が耳に届く。
どうやらあの願いは最高の形で叶うようだ。
Fin.
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チョロ松girl⊂⌒⊃ - とても、綺麗な話でした！ そして、色々と考えさせて貰いました。 (2019年7月15日 22時) (
レス) id: d9fccfe3cd (このIDを非表示/違反報告)
Aster - 野口さん» 少しでも貴方の考えの参考になったのなら嬉しいです。続編でもよろしくお願いします。 (2016年12月11日 18時) (レス) id: 7de9db5b63 (このIDを非表示/違反報告)
Aster - 紫流さん» 私は常々人の心を動かすのが物書きの仕事だと思っています。夢に一歩近づけたかな、と嬉しくなりました。こちらこそ素敵なお言葉をありがとうございます。 (2016年12月11日 18時) (レス) id: 7de9db5b63 (このIDを非表示/違反報告)
野口 - 今回のもとても綺麗でおもしろかったです！ (2016年12月7日 8時) (レス) id: 1de2cb0f26 (このIDを非表示/違反報告)
野口 - 新しいの読ませていただきました 今回のは読んでいて、あまり輪廻の話に興味がなかったんですが、来世でもその人を好きでいられるかというのは難しいと思いました。だって逢える確率の方がひくいもん、だから今精一杯の愛を！ってことかなぁと考えさせていただきました (2016年12月7日 8時) (レス) id: 1de2cb0f26 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：Aster | 作成日時：2016年8月30日 8時
