恋とか花とか気持ちとか。 16 ページ21
カラ松の自分を見る目が酷く冷たい。
その時、おそ松の頭に、ある危惧が過ぎった。今まで、深く考えることがなかった、考えていなかった、危惧が。
(……もし、俺が気持ちを隠しきれなくて、カラ松に知られてしまったら、この目で拒絶されるのだろうか)
そんな光景を思い浮かべて。
(うぐっ！？)
あの日と同じで、突然異物が生じた痛みが喉に走る。
でも、やはり薔薇は棘がついていたので別格であったのか、あの日よりは痛くない。けど、それとこれとは別だ。
「……まあ、でも、せっかく来てくれたんだし、マミーのところから出すことはできないが、オレの財布から出してやっても……」
「ごめん、カラ松！ いきなり腹痛がきたから俺トイレ！ しばらく籠もるかも！」
「あ、ああ」
カラ松の言葉を遮っておそ松は店内のトイレへと向かって駆け出す。カラ松の言葉はおそ松の耳には全く届いていなかった。聞いていたのなら、もっと違う形で症状が出ていたのかもしれないが、今となってはそれもわかりはしない。
おそ松はトイレに駆け込むと、ドアを開けて中に入り、閉めて鍵を掛けた。
またいつどこで吐くかわからない、と用意しておいた黒いビニール袋を取り出し、しゃがんで素早く袋の口を開ける。
吐くのを促すため喉に片手を突っ込むと、意外にも早く腹の奥から気持ち悪さが湧き上がってきた。すかさず顔を下げ、黒いビニール袋に花を吐き出す。自分が花を吐く情景など見たくはないと、ぎゅっと強く目を瞑って吐き出した。
吐き出される瞬間、茎の末端が口内を引っ掻いて痛かったが、とにかく吐けたと、ある種の達成感に包まれる。そんな自分に引きながら、安心して壁に寄りかかった。
今回自分が吐いた花はなんだろうか、と黒いビニール袋の中を覗いてみる。
そこには、淡いオレンジ色に染まっている四枚の花弁がついた花があった。外側が囲むようにして黄色に色づき、中心にはまるで紋章のように雌しべと雄しべがついている。これが草原にのびのびと咲いていたらとても綺麗なのだろう。そのことがわかるからか、黒いビニール袋の中に入っているのがすごく異常に思える。
袋の口を素早く閉め、パーカーのポケットに入れる。鍵を開け、トイレから出ると、カラ松の姿を探した。レジで会計をしていたカラ松を見つけると、なんでもないような顔をして近づく。
「ごっめん、カラ松ー、なかなか出なくてさー」
「それは良いが、大丈夫なのか？」
「ああ、もうスッキリ！」
恋とか花とか気持ちとか。 17→←恋とか花とか気持ちとか。 15
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 9人がお気に入り
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
チョロ松girl⊂⌒⊃ - とても、綺麗な話でした！ そして、色々と考えさせて貰いました。 (2019年7月15日 22時) (
レス) id: d9fccfe3cd (このIDを非表示/違反報告)
Aster - 野口さん» 少しでも貴方の考えの参考になったのなら嬉しいです。続編でもよろしくお願いします。 (2016年12月11日 18時) (レス) id: 7de9db5b63 (このIDを非表示/違反報告)
Aster - 紫流さん» 私は常々人の心を動かすのが物書きの仕事だと思っています。夢に一歩近づけたかな、と嬉しくなりました。こちらこそ素敵なお言葉をありがとうございます。 (2016年12月11日 18時) (レス) id: 7de9db5b63 (このIDを非表示/違反報告)
野口 - 今回のもとても綺麗でおもしろかったです！ (2016年12月7日 8時) (レス) id: 1de2cb0f26 (このIDを非表示/違反報告)
野口 - 新しいの読ませていただきました 今回のは読んでいて、あまり輪廻の話に興味がなかったんですが、来世でもその人を好きでいられるかというのは難しいと思いました。だって逢える確率の方がひくいもん、だから今精一杯の愛を！ってことかなぁと考えさせていただきました (2016年12月7日 8時) (レス) id: 1de2cb0f26 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：Aster | 作成日時：2016年8月30日 8時
