恋とか花とか気持ちとか。 9 ページ14
すると、コンコン、とトイレのドアがノックされた。
「おそ松？ 大丈夫か？」
続けて、カラ松の呼びかける声がする。
「ああ、だいじょう……」
それに答えようと声を出すと、また、痛みが酷くなった。
「うえっ、げ……」
思わず言い切ることもできずえずくが、それもうまくできない。吐けないもどかしさだけが溜まっていく。
「おそ松！？ 本当に大丈夫なのか！？」
「ああ……」
心配させちゃいけない、と、「大丈夫だ」と答えるが、大丈夫なはずがない。
原因はわからないが喉は痛いし、血は出る。吐けないことがこんなに苦しいだなんて知らなかった、と酒を飲みすぎたときとは違う吐けなさに苦しめられる。
それでも尚、ドアの外から声を掛けてくるカラ松の声を聞き流しながら、吐けないのなら吐けるようにすればいいんだ、と思いつく。吐けなさの感覚は違うが、吐けないのは酒のときと同じだ。それなら、酒のときと同じことをすればいいと。
おそ松は一旦吐くときの体勢を止め、上半身を起こすと、喉に片手を突っ込んだ。親指は入らないので頬を押さえる役割を与えながら、残った四本で喉の奥を目指す。
(……っ、痛い！？)
いきなり指に鋭い痛みが走った。思わず手を抜くと、腹の方から気持ち悪さがせり上がってくる。今なら吐けそうだ、と思わず吐く体勢になると。
「ぐえっ、げほ、……がはっ」
吐けた。
でも、何かがおかしい。吐いたときの胃液で喉が焼けるあの嫌な感じがしない。まだ食材の形が残るドロドロの液体を吐いた感じがしない。極めつけに、鼻に甘い匂いが漂ってくる。
便器の中を覗き込むと、そこには、濃い赤。厚ぼったいような立体感がある濃い赤。紅色に色づいた薔薇が、そこにはあった。
定番の多弁の、花弁が幾重にも折り重なった薔薇。茎には当然のように棘がついている。棘には赤黒いものがついていて、自分の喉はこれで傷つけられたのだと知った。
疑問は解けた。だが、目の前の現象を信じられるわけもない。
(……花、を吐いたのか、俺が？ この薔薇は俺が吐いたのか？)
思考回路がうまく働いてくれない。目の前の光景を理解してくれない。頭の中はパニック状態だった。
「おそ松！？ 大丈夫か！？ 苦しいのか！？ 返事をしてくれ！！」
返事が返ってこないと思ったら苦しそうに吐く声が聞こえたことで、カラ松が慌てて声を掛けてくる。
とりあえず喉の痛みはもう無いし、カラ松に返事をしようと声を発する。
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チョロ松girl⊂⌒⊃ - とても、綺麗な話でした！ そして、色々と考えさせて貰いました。 (2019年7月15日 22時) (
レス) id: d9fccfe3cd (このIDを非表示/違反報告)
Aster - 野口さん» 少しでも貴方の考えの参考になったのなら嬉しいです。続編でもよろしくお願いします。 (2016年12月11日 18時) (レス) id: 7de9db5b63 (このIDを非表示/違反報告)
Aster - 紫流さん» 私は常々人の心を動かすのが物書きの仕事だと思っています。夢に一歩近づけたかな、と嬉しくなりました。こちらこそ素敵なお言葉をありがとうございます。 (2016年12月11日 18時) (レス) id: 7de9db5b63 (このIDを非表示/違反報告)
野口 - 今回のもとても綺麗でおもしろかったです！ (2016年12月7日 8時) (レス) id: 1de2cb0f26 (このIDを非表示/違反報告)
野口 - 新しいの読ませていただきました 今回のは読んでいて、あまり輪廻の話に興味がなかったんですが、来世でもその人を好きでいられるかというのは難しいと思いました。だって逢える確率の方がひくいもん、だから今精一杯の愛を！ってことかなぁと考えさせていただきました (2016年12月7日 8時) (レス) id: 1de2cb0f26 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：Aster | 作成日時：2016年8月30日 8時
