靴に画鋲を入れます【及川徹】

壁 ページ37

『怖くなんてないはずなんだよ』。


あの日あの子が消え入りそうな声で言った言葉だ。
まるで自分に言い聞かすようなその言葉。
その日が初めてだったけどあの子の胸中は驚くほど簡単に感じとれた。

想像するより普通の子で、だからこその思考なんだろう。

だから俺は壁になった。

本当は一人になんてなりたくないけど臆病なあの子に、一番最適な距離でいよう。


人の原動力のほとんどは興味から始まるが、それがどう変化していくかは物事による。
でも俺の方向性はもう悟っていた。


あの子と及川さんとを繋げるために、俺は壁になろう。


簡単なことで苦しむ彼女を解放出来るのがそれで、軽薄で本当の幸せを掴めない先輩の幸せを定着させられるからだ。

どっちにしろ好意がないとしない。


「金田一、さっき松川先輩呼んでたよ」


いじめられていたという自身が汚点と思っていることを及川さんに知られたくはないだろう。

あの子が気になって調べようと思った時俺は金田一からそれを聞いたのに及川さんはダメなんておかしい話だ。

でも少しだけ、欲を出しても許されるはず。


なんでわざわざそんなことしたんだろう。なんてまああの子じゃないからわかるけど。




Aは今幸せそうだ。

俺はすぐに気付いてた簡単なことに気付けないのは本当に歯痒かった。でも嬉しさもある。

あってしまう。


けど、応援してるからね。

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