靴に画鋲を入れます【及川徹】

二十九個目 ページ30

「岩ちゃん天然タラシでしょ〜。男も惚れる男って感じだしね」
「……はい。男前です」


もはや現状に頭がついて行かない。けど、一応現実なのだろう。ボールを片付けて笑顔でこっちに近づいてくるその人の気配を感じる。


「で、何か用かな？」


そうだった。きちんとしないと。


「あの、がっ画鋲……のこと……本当に申し訳ありませんでした」


深く頭を下げる。


「貴方に手を出そうとする人達から守るために偽善で軽率な行為をしてしまったこと、本当にっ……ごめんなさい」

「頭、上げて」

「……怪我までさせてしまいました。本当にごめんなさい」

「……あれね、わざとだよ」


わざと。
その言葉に思わず顔を上げ、その人を見つめた。


「君が本当はどういう感情で入れてるのか知りたくてさ。俺ね、中学で最初の時から君のこと知ってたよ」

「毎日遅くに覗きに来ていつも決まってボロボロに汚れた制服。他の女の子とは違うっていうのも感じ取れたし、興味があったんだよね」

「今もそうだけど、あんまり目立ったことしないのに関係無い俺のこといち速く手当てしてくれたし、ここまでくると自惚れじゃなくともメリットなくても善意をやれる相手って認識されてると思っちゃうよね」


ああ本当だ。よく知られてる。


「そんな子が嫌味でそんなことしてるなんて到底思えないし、そこに最近ガン飛ばしてくる奴いないなーと思ったのがふと重なって調べたら、まあ正解って感じだったからさ」

「…………」

「形はどうであれ、守ってくれてありがとうね」


眉を下げにこりと微笑む。
こんな顔してもらえる筋合いはあるのか。他の女の子達みたいに容易く作れる笑顔でさえもったいないくらいなのに。

ああ、やっぱりこの人はすごい人だ。


「……私は自分は持ってないものを全部持ってる貴方が羨ましかったけど憧れました。毎日毎日努力をして、詰まったとしてもそこで折れずに先へ進む姿は、唯一の生き甲斐でした」


それは確かに私の支えだった。行きたくない学校もこの人のおかげで通っていた。

しっかり謝りを、感謝を。


「本当に、ありがとうございました」


勝手に楽になるのもどうかな。でもこれは正しいことだから許されるよね。
過ちも謝罪も悔いも全てを込めて頭を下げた。



「……なに勝手に完結させちゃってんのさ。俺そんなつもりでマグネット渡したんじゃないんだけど」

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