靴に画鋲を入れます【及川徹】

二十八個目 ページ29

あちこち駆け回った。人にも訊いて道を辿った。

そして、昼休みだからと除外していた体育館で珍しく周りに女の子一人もいないその姿を捉えた。


「…………」


ダメだ。萎縮する。早く行かないと。確認できる人数はその人合わせて四人。三年レギュラーだ。壁際にお弁当箱など昼食の残りかすがあるところと制服のままの気崩しを見ると昼食を食べた後に軽く体を動かしているのだろうか。

行かないと。自分の感情も行動も全部綺麗に片付けるんだろ。後から後悔しか残らないぞ。

声を、

声を、出せ。


「あの……！すみません」


出た声に頭が後から追い付く。するときちんと聞こえてくれたのかボールを弄んでいた手が止まり視線がこっちに注がれた。


「及川さん、いますか」


いや待て。目の前にいる。「いるのに何言ってんだこいつやばい」とか思われたらどうしよう。完全におかしい奴コミュ障認定。
もしかしたら告白しに来たとか思われてるかもしれない。いやどの面下げてって話だ。

高速で浮かぶ思考と三年生の納得したような余裕のある反応にぶわっと一気に冷や汗が噴き出した。


「及川さんはここにおります」
「いつもありがとうねー。こいつのプレーを見てやってくれて俺ら嬉しいよ」


そう笑ったのは花巻さんと松川さんだった。


「いいプレーすんでしょこいつ。ウザいのが致命傷だけど」


にやけながら指をさす花巻さんに本人は「あざといって言ってよ！」と突っ込む。

何か、何か返さないと。


「はい。でも花巻さんの臨機応変なプレーも松川さんの余裕のある冷静なプレーも流石だと思います」


ぽんっといつも思っていたことを垂れ流した次の瞬間、謎の沈黙と微妙な空気が流れた。
何か変なことを言っただろうか。初対面でいきなりは気持ち悪かったとかおおいにありえる。

すると及川さんはなぜか自慢気な顔を浮かべ、他の三人は目配せを交わした。


「プレースタイルも知ってんだな」
「あいや……すみません」
「いつもありがとな」


思わず視線を落とすと岩泉さんに優しく頭を叩かれる。動揺する間もなく俺ら先行ってるわ、と一言伝えると扉から出ていった。

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