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「でも、ちょっと変わったお顔をしているね。『あんこくたいりく』から来たからかい?『あんこくたいりく』ってどこの国だい?」
アラジンの問いかけにも反応せず石像のようにムスーンとして口を閉ざしていた赤毛の少女だったが、やがてぼそぼそと言葉と紡ぐ。
「……国じゃない。
『暗黒大陸』は、『レーム帝国南方属州以南は未開発だ』という意味で付けられた私の故郷カタルゴの蔑称です……やめてください」
「へぇ、未開発の土地なのかい?」
「み、未開発なんかじゃほんとはないんです……国もあるし、村もあるし。太陽はきれいだし、大地は広いし、大きな動物もたくさん。おいしい果物もたくさんあるんですから」
少女の言葉にアラジンは無限に広がる自然を想像したのか顔をほころばせる。
「へぇ、いいなあ!太陽に果物に動物かぁ。おねえさんの故郷って、なんだかとっても楽しそうなところだね」
────故郷。そうだ、きっと楽しいところだ。
実のところ、あまり覚えていないモルジアナは憶測で喋ってしまっていた。罪悪感に苛まれているのもあるのだろうか、悶々としているとアラジンが口を開いた。
「はー、よのなかは知らないことがいっぱいだねぇ。
僕の知らないどこか遠い国で、綺麗な太陽と、広い大地で、楽しく暮らしている人達がいるんだね。会ってみたいなぁ、行きたいな……おねえさん、つれて行ってよ」
この世界にはまだ知らないことが沢山ある。すべてを知りたいとでも言わんばかりの少年の言葉だが、見えない鎖に繋がれた少女は歯噛みする。
「それは、無理です」
「どうして?」
「どうしてって、私は奴 隷ですので……逃げられません」
なんだそんなことか、とでも言うように少年は笑顔で返す。
「逃げられるよ。この間みたいに鎖を切れば。二本の足で、おねえさんの故郷まで行けるじゃないか」
ニコニコとして放たれる言葉は少年の好意なのだろうが、モルジアナを苛立たせるばかりだった。
「あなたは何もわかっていない。鎖を切ったくらいでは領主様からは逃げられない。
────あの人は怖い人。絶対に逃げることなどできない」
「え?できるよ」
「できません」
「なんで?」
「なんでも……」
「なんで?なんで?」
「────なんでも!できないものは、できないんですっ!!」
少女は声を荒げる。それに懲りたのか、アラジンもしばらく声を発することはなかった。
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作者名:名無しさん | 作成日時:2017年12月30日 21時