玉手箱�� ページ5
「これ、覚えているか？」
解かれた風呂敷から、金蒔絵の細工が施された漆塗りの箱が出てきた。
『箱…自体には見覚えがあります。私の物かと。』
んじゃ中身はどーだろな、と言って坂田さんがパカリと蓋をあける。
中には封筒、古びた帳面、そして一本の簪とマフラーが入っていた。
『これは…？』
「記憶を無くす少し前、お前が万事屋に預かってて欲しいって持ってきた箱だ。中を見るのは俺も初めてだけどな。」
封筒を手に取り、中を取り出す。
中身はお金と一筆箋だった。
"万事屋様 依頼の残金です。 月花"
一筆箋には、私の筆跡でそう書かれていた。
『依頼…？』
「大切な物だから、俺達にこの箱を預かっていて欲しい。そう言ってたよ、お前は。」
大切な物。
封筒を置き、次は帳面を手に取る。
私の記憶より大分古びてはいるが、これは知っている。
パラリ、と頁を捲ると、そこには子供の拙い字と達筆な大人の字が入り混じって、様々な薬の事が書かれていた。
これは、私と楊が書いた物。
こんな薬がもしあったら。
そう2人で話して、取り留めもなく書き溜めていった物だ。子供だった私が夢物語に近い内容を書いた横に、楊が医学薬学の専門的な視点で、ヒントを書き足している。
これは確かに、私にとって大切な物だ。
最後に、簪とマフラーを手に取る。
簪のデザインは少し変わっていた。透明な蜻蛉玉の中に赤と黒の金魚が揺らめく、まるで金魚鉢のような簪。
マフラーは新品のように綺麗で、シンプルだが上質な素材で出来ている物だった。
とても素敵な物ではあるが、私は基本的に自分の持ち物はあまり増やさない性質だ。
自分で買った物なのだろうか、これは。
「どうだ？なんか思い出すか？」
坂田さんがこちらを見る。
『…いいえ。この帳面はずっと昔から見知った物なので分かるのですが、他はさっぱり。』
「…そか。ま、とりあえずこれで受けた依頼は完了だ。」
んじゃな、と帰ろうとする坂田さんを呼び止め、私はお金の入った封筒を渡した。最初は断られたが、これはきっと正当な報酬なのだから、と半ば強引に手渡した。
坂田さんは、「ま、焦んなよ。のんびりいこうや。」と言って帰っていった。
1人になった部屋で、改めて簪とマフラーを手に持つ。
見覚えはない。だけど、きっとこれは大切な物だったはず。金蒔絵の漆塗りの箱は、子供の時から私が宝物を入れる時に使う箱だったからだ。
失くした記憶の手がかりが、きっとここにある。
そんな気がした。
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まつ - 近藤さんの優しさや芯のある強さを繊細に描いてくださりありがとうございます！月花さんの性格や言動も、誇り高く賢さを感じてとても好感が持てました！ (4月24日 13時) (
レス) @page46 id: 9000a0584e (このIDを非表示/違反報告)
岡Ｐ(プロフ) - 素敵なお話しですね。優しく、愛情深い近藤さんの魅力が溢れ、胸ときめきながら読ませて頂きました。これからも素敵なお話し楽しみにしています。頑張って下さいね。 (2021年1月22日 4時) (携帯から) (レス) id: 8256504f4a (このIDを非表示/違反報告)
こたつむり(プロフ) - 心咲さん» やる気が出るコメント、ありがとうございます！続編はかなり遅くなるとは思いますが、必ず完成させますのでどうかお待ちくださいm(_ _)m (2018年12月6日 8時) (レス) id: 88093f805b (このIDを非表示/違反報告)
心咲 - とにかく最高!素晴らしい作品です(^^)本家の本になってくれたらと思うほどの作品です♪近藤さんファンにはたまらないです！続き楽しみにしてます♪ (2018年12月3日 10時) (レス) id: efaa18aec6 (このIDを非表示/違反報告)
こたつむり(プロフ) - ななしさん» 正しくは"力不足"でした…。ご指摘、ありがとうございます！ (2018年11月27日 23時) (レス) id: 88093f805b (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：こたつむり | 作成日時：2018年9月25日 0時
