誕生日? ページ33
今日はAちゃんの誕生日。
デートして、飯食って。
"誕生日おめでとう"の一言と、もう1つの伝えたいこと。それらを言おう言おうと思ってたのに、気付けばいつのまにか屯所への帰り道。
俺は懐に入れた小さな箱を、再確認するように服の上から触った。
『今日の食事処のご飯、美味しかったですね!月も綺麗な夜だし…今日は楽しかったです。』
Aちゃんはご機嫌で、俺の少し前を歩く。
「あ、ああ。そうだね。」
やべ。緊張する。
『近藤さん?』
Aちゃんが首を傾げながら、聞いてくる。
『最近、なんか変ですよ。心ここにあらず、というか。』
「え、そう?」
『なんというか、上の空というか…。もしかして、お疲れでしたか?』
「いや、全然!」
『そうは言っても…。しばらく、お出かけするのは控えましょうか。お休みは屯所でのんびりしましょ?』
話の流れが、ああ。
くそっ、もう、言うぞ。
「Aちゃん!」
急に名前を呼ばれて、Aちゃんが驚いた目でこちらを見る。
「あ、あの!これ!…受け取って、くれるかな。」
俺は懐から例の箱を取り出し、Aちゃんに差し出した。
Aちゃんは不思議そうな顔で箱を手に取ると、そっとそれを開いた。
『わぁ…綺麗。』
Aちゃんは顔をパァっと輝かせる。
『でも、なぜ?こんな高そうな物いただけないですよ。』
「今日誕生日でしょ?それに…。」
『えっ?』
「えっ?」
Aちゃんの間の抜けたような声に釣られて、言葉が詰まる。
『誕生日?』
…え。
も、もしかして間違えたぁぁあ!?
俺がアワアワとしていると、Aちゃんはハッとしたように、鞄から免許証と手帳を取り出した。
『あっ!本当だ誕生日だ!』
「いやいや自分の誕生日それおかしくないぃい!?」
Aちゃんは俺が突っ込むと、照れたようにテヘヘと笑った。
『あの、これ本当の誕生日じゃないんです。いや、そうかもしれないんですけど。』
「どういうこと?」
俺が落ち着くのを待って、Aちゃんは説明してくれた。
孤児だった自分は、身分を証明できるものもなく、攘夷戦争後に戸籍を作ったこと。戸籍上の誕生日は、なんとなく適当に決めた日だったので、特に思い入れも無いこと。城中医として働いてる間、誕生日なんて祝う暇もなかったから、もう完全に忘れていた、ということ。
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まつ - 近藤さんの優しさや芯のある強さを繊細に描いてくださりありがとうございます!月花さんの性格や言動も、誇り高く賢さを感じてとても好感が持てました! (4月24日 13時) (レス) @page46 id: 9000a0584e (このIDを非表示/違反報告)
岡P(プロフ) - 素敵なお話しですね。優しく、愛情深い近藤さんの魅力が溢れ、胸ときめきながら読ませて頂きました。これからも素敵なお話し楽しみにしています。頑張って下さいね。 (2021年1月22日 4時) (携帯から) (レス) id: 8256504f4a (このIDを非表示/違反報告)
こたつむり(プロフ) - 心咲さん» やる気が出るコメント、ありがとうございます!続編はかなり遅くなるとは思いますが、必ず完成させますのでどうかお待ちくださいm(_ _)m (2018年12月6日 8時) (レス) id: 88093f805b (このIDを非表示/違反報告)
心咲 - とにかく最高!素晴らしい作品です(^^)本家の本になってくれたらと思うほどの作品です♪近藤さんファンにはたまらないです!続き楽しみにしてます♪ (2018年12月3日 10時) (レス) id: efaa18aec6 (このIDを非表示/違反報告)
こたつむり(プロフ) - ななしさん» 正しくは"力不足"でした…。ご指摘、ありがとうございます! (2018年11月27日 23時) (レス) id: 88093f805b (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:こたつむり | 作成日時:2018年9月25日 0時