彷徨う ページ20
思わず逃げ出してしまった。
日々の稽古で足腰もだいぶ回復していたらしく、人混みに紛れて走ってしまえば、近藤さんに追いつかれることもなかった。
『いっそ追いつかれた方が。』
そう呟いて、頭を振る。
一体どこまで身勝手なんだろう、私は。
近藤さんの手が私の腕に触れた時、そこがカッと熱くなるような、そんな錯覚がした。そのまま抱きしめられたいと、そう思ってしまった。
同時に夢の中の男性が頭をよぎった。訳が分からなくなって思わず、近藤さんの手を振り払い飛び出してしまった。
あの夢を見ている時、私は顔も分からぬ彼に確かに恋をしている。だが目を覚ませば、近藤さんの事ばかり考えてしまう。ふらふら、ふらふらと、いい加減な女だと自分で思う。
気が付けば万事屋の前まで来ていた。
彼らと他愛もない話でもしたら、気分転換も出来るかもしれない。そんな期待を込めて階段を上がったが、戸を叩いても返事はなかった。
『留守かぁ…。』
トボトボと階段を降りていると、ちょうど下の店から出てきて掃除を始めた玉さんと出くわした。
『あ、玉さん。こんにちは。』
彼女も、私の未だ思い出せない知り合いの1人。何度かお見舞いに来てくれていた。
私の記憶も、彼女のように機械のメモリーに保存出来てたらよかったのに。
「こんにちはA様。銀時様に御用でしたか?」
『ええ。でも留守だったみたいで。』
「銀時様たちはしばらくお戻りになっていません。死腐達星に御用があるとのことで。」
『死腐土星?』
まさか他の星に行っていたとは思わなかった。
何か依頼でもあったのだろうか。どちらにしても今日明日で帰ってくる感じではなさそうだ。
『そうなんですか、また日を改めます。』
「A様。本日はこれから雨の予報が出ています。傘をお貸ししましょうか?」
『いえ、お気遣いなく。屯所はすぐそこですから。…では。』
玉さんに別れを告げ、再び街を彷徨う。
ああは言ったものの、まだ屯所に戻る気にはなれなかった。
街の中を流れる川を渡す橋に差し掛かる。
夢の中の橋によく似ている、と思った。
夢と同じように欄干に手をかけ、空を見上げる。
空に月はない。まだそんな時間じゃないのだから当たり前か。月どころか、空は重い鈍色で、つつけば今にも雨が落ちそうだった。
ぽつり。
欄干に乗せた手の甲に、早速雨が一粒落ちた。
ぽつ。ぽつぽつ。
さぁ、さぁ。
川の水面に小さな波紋がいっぱいに広がる。
雨は嫌いだ。
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まつ - 近藤さんの優しさや芯のある強さを繊細に描いてくださりありがとうございます!月花さんの性格や言動も、誇り高く賢さを感じてとても好感が持てました! (4月24日 13時) (レス) @page46 id: 9000a0584e (このIDを非表示/違反報告)
岡P(プロフ) - 素敵なお話しですね。優しく、愛情深い近藤さんの魅力が溢れ、胸ときめきながら読ませて頂きました。これからも素敵なお話し楽しみにしています。頑張って下さいね。 (2021年1月22日 4時) (携帯から) (レス) id: 8256504f4a (このIDを非表示/違反報告)
こたつむり(プロフ) - 心咲さん» やる気が出るコメント、ありがとうございます!続編はかなり遅くなるとは思いますが、必ず完成させますのでどうかお待ちくださいm(_ _)m (2018年12月6日 8時) (レス) id: 88093f805b (このIDを非表示/違反報告)
心咲 - とにかく最高!素晴らしい作品です(^^)本家の本になってくれたらと思うほどの作品です♪近藤さんファンにはたまらないです!続き楽しみにしてます♪ (2018年12月3日 10時) (レス) id: efaa18aec6 (このIDを非表示/違反報告)
こたつむり(プロフ) - ななしさん» 正しくは"力不足"でした…。ご指摘、ありがとうございます! (2018年11月27日 23時) (レス) id: 88093f805b (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:こたつむり | 作成日時:2018年9月25日 0時