近藤 勲の恋人は局中医 弐【銀魂】

右上段という構え ページ15

近藤さんの突然の誘いを受けて、私は今屯所内の道場にいる。
道場の壁の高い所には在籍している隊士の名前札が並べられ、上座には神棚が飾られている。
近藤さんは隅にまとめられていた木刀を2本手に取り、１本を私に手渡してきた。

「よし、まずは適当に素振りしてみてくれるか？」
『えっ。でも剣術のこと、何も思い出せてませんよ？』
「いいからいいから！」

近藤さんに言われるがまま、私は木刀を振りかぶり下ろす。

「ちょっとそのまま３０本ぐらい振ってみて？」

頷き、そのまま素振りを続ける。
やり方はこれで合っているのだろうか。
何本か振る。

肘を開くのではなく、胸を開くように振りかぶり、左手を内側に締めるようにして、振り下ろす。

…あれ、なんでこんなことを考えるんだろう。

「おし！オッケーオッケー！やっぱり俺の思った通り！」

ニコニコと嬉しそうな顔をする近藤さんの意図が分からず、怪訝な顔をしていると、彼は説明してくれた。

「剣術ってのは頭で理解するもんじゃねェ、身体で覚えるもんだって俺ァ思ってる。だから記憶がなくなったとしても、実際に剣を持ってみりゃあ身体が思い出すだろと思ったんだが…。」

予想的中！と近藤さんはニカっと笑う。
身体が覚えてる、か。
さっき素振りの時に頭に浮かんだイメージは、身体が覚えていた記憶なのかもしれない。

『でも、やはりこの左手では上手く出来ません…。』

実際、握力はかなり落ちている。
敵と相対しても、この調子じゃあ攻撃を一度受けたら、自分の刀を落としてしまうだろう。

「そこで、だ。動きの主体を左手から右手に変えるんだ。それに合わせて、構えや踏み込みの足も反対にする。」
『今までと真逆ということですか？』

そう、と言って近藤さんは実際に手本を見せてくれる。

「で、相手の攻撃どうするかだけど。確かに今の握力じゃ攻撃を刀で受けたら、刀ごと落としちまう可能性がある。なら、相手の攻撃より速く自分の攻撃を届かせればいい。」

近藤さんはそう言うと、大きく木刀を振りかぶり、右足を前にして構えた。

「これは右上段っていう構えだ。最初から振りかぶっている分、中段の相手より速く攻撃が出来る。体重を乗せて刀を落とせば、握力が減った分の威力もカバーできる。Aちゃんは俺みたいにでかいわけじゃねェし、確か刀も少し短めだったから、建物内の戦闘でも十分出来る構えだと思うよ。」

その笑顔が見たかった→←トシエモン

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