そのろくじゅうさん ページ19
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映し出された文字に、私の胸はドクンドクンと早くなる。
何だか酷く久しぶりな気がして、着信音がいつもよりも大きく感じた。
そっとスマホを手に取り、通話を押そうする指が震える。
無駄に緊張している自分に言い聞かせるように、大丈夫、と呟いて画面をタップし、耳に当てる。
「もしもし」
そう乾いた口から出た声は、少しだけ震えていた。
『もしもし。久しぶり、元気?』
二週間ぶりくらいの黒尾先輩の声は相変わらず飄々としていて、何だか少しだけ拍子抜けしてしまう。
「元気です。黒尾先輩はお元気ですか」
『うん、超元気』
そう言って笑う声が聞こえて、歯を見せて笑う姿が目に浮かぶ。
それは良かったです、とだけ呟くと、そこから言葉は返ってこず、何とも言えない沈黙が続いた。
「…先輩?」
『…ん?』
「何かありました?」
『いーや、別に何もねぇよ?』
私の問いへの返答が、何となくいつもよりもふわふわと弱々しい気がする。
「…そうですか。急にかけてきたんで、何かあったのかと思ったんですけど」
『二週間くらい連絡取れなかったから、Aちゃんが寂しいんじゃねぇかな、と思って』
「…別に寂しくありません」
思わず図星を突かれて少し口ごもってしまったが、先輩はそれに気づいていないのか、そうだよなぁ、とポツリと呟いた。
…おかしい。
いつもなら、相変わらずデスネ、なんて言って笑うところなのに。
自分の中にあった色んなものを全て忘れて、電話越しの先輩の異変の原因を探ろうと、私は口を開く。
「もうすぐ代表決定戦じゃないですか。それで忙しいことくらい私にも分かります」
別に、電話をしよう、なんていう約束を交わしている訳でもないし。
そう心の中で呟きつつ、いつでしたっけ?と問いかけた。
『…明日』
小さく放たれたその言葉に、何となく、先輩の異変の原因を察する。
「…先輩。緊張してるんですか」
電話の奥の空気が揺れた気がして、直接過ぎたかな、なんて少し後悔したけど、ゆっくりと間を開け、先輩の声が返って来る。
『…バレた?』
「何となく、ですけど」
『…そっかあ』
いつもよりもずっと張りのない声でそう言って、
『かっこ悪ぃな』
と、苦笑いするように呟いた。
初めて聞いた声が、私の耳に響く。
「…悪くないですよ」
『…え?』
「…かっこ悪くないです」
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mifulu(プロフ) - 宇宙。さん» ありがとうございます! そう言って頂けてとても嬉しいです! 他のハイキューキャラの小説もいつか作ろうと思っているので、また読んで頂けると嬉しいです(´˘`*) (2020年6月15日 7時) (レス) id: 78d3fcb26b (このIDを非表示/違反報告)
宇宙。(プロフ) - あの!!最高でした!!黒尾先輩がめっちゃ黒尾でした(?)推しの最高な物語読めて嬉しいです、ありがとうございました。もしよろしければツッキーとか影山とか、あかーしとか、書いてくれると嬉しいです! (2020年6月15日 3時) (レス) id: 68b0101532 (このIDを非表示/違反報告)
mifulu(プロフ) - 伽音さん» ありがとうございます! そのお言葉で、私もニヤけてしまいます笑 これからも楽しんで貰えるような作品をお届け出来るよう、頑張ります。 (2020年6月4日 22時) (レス) id: 856ce52b7f (このIDを非表示/違反報告)
伽音(プロフ) - 面白くて、ニヤケながら86話を一日で読んでしまいました!良い小説ですね!お疲れ様です!これからも応援してます! (2020年6月4日 19時) (レス) id: b1d06a9201 (このIDを非表示/違反報告)
mifulu(プロフ) - ルだ子さん» 嬉しいお言葉、ありがとうございます! 楽しんで頂けたようで幸いです(´˘`*) まだ制作中ですので、もう少しお待ち下さい。 (2020年6月1日 21時) (レス) id: 856ce52b7f (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:mifulu | 作成日時:2020年4月26日 18時