そのろくじゅうに ページ18
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怒涛の三日間の遠征を終え、宮城に帰ってきてからはあっという間だった。
一日一日がものすごく早く感じて、気持ち的にはすぐ迎えた宮城県代表決定戦。
条善寺に和久谷南、青葉城西、それから白鳥沢。
どれもが濃くて、素晴らしくて、言葉では言い表せないくらいの試合たちだった。
…ああ、私たちは全国に行くんだ。
興奮やら歓喜やら感動やらでぐっちゃぐちゃな頭で、白鳥沢戦後、そんなことを考えた。
正直、全国なんてあまりにも漠然としていて、実感とか想像は全く出来なくて。
けれど、その夜、研磨先輩経由でそれを知った黒尾先輩の電話の奥の声が、嬉しそうで、どこか緊張していて、ようやく私は実感したのだった。
先輩との電話はそれきりで、ここ二週間くらいLINEもあまりしていない。
もうすぐ東京都代表決定戦だと言っていたし、私と連絡する暇もないのだろう。
まぁ、その方が都合が良いんだけどね。
何となく手に取ったスマホをベッドの隅に放り投げて、ベットに腰掛けた。
あの遠征の夜、思わず零してしまった自分の本音が忘れられなくて。
黒尾先輩はあの夜以外、そのことを口にすることはない。
たとえ意図せず出てしまった言葉でも、言っていいことと悪いことがある。
私はもう何度目かの思考に陥りながら、ベッドにそのまま倒れ込む。
あと半年で卒業する先輩に、『留年したら』なんて、失礼だったのではないだろうか。
『留年』という言葉は、世間的に良い意味では無いし、未来に向けて頑張っている人に言っていい言葉では無い。
ああ、もう、なんてことを言ってしまったんだろう。
自分の部屋にあるもの全てに背を向けるように縮こまって、壁の方に顔を向けた。
少しクリームがかった白色の見慣れた壁が、視界いっぱいに広がる。
何度も謝ろうかと思ったけれど、あの話をもう一度持ち出せば、今度こそ言い逃れ出来ない気がして結果謝れていない。
私は、はぁとひとつため息をついた。
開けていた窓から冷たい風が入ってきて、部屋がひんやりと静まる。
こんな大切な時期に、こんなことを考えている、っていうのがそもそもいけないよね。
しかも、電話がかかって来なくて安心してるのに、逆に寂しいと思ってるなんて、矛盾もいいところだ。
自己嫌悪に押しつぶされそうになって、ギュッと目をつぶった。
その時、何度も聞いた着信音がなって、私はガバッと身体を起こす。
恐る恐る覗いた画面には、『黒尾先輩』の文字が映し出された。
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mifulu(プロフ) - 宇宙。さん» ありがとうございます! そう言って頂けてとても嬉しいです! 他のハイキューキャラの小説もいつか作ろうと思っているので、また読んで頂けると嬉しいです(´˘`*) (2020年6月15日 7時) (レス) id: 78d3fcb26b (このIDを非表示/違反報告)
宇宙。(プロフ) - あの!!最高でした!!黒尾先輩がめっちゃ黒尾でした(?)推しの最高な物語読めて嬉しいです、ありがとうございました。もしよろしければツッキーとか影山とか、あかーしとか、書いてくれると嬉しいです! (2020年6月15日 3時) (レス) id: 68b0101532 (このIDを非表示/違反報告)
mifulu(プロフ) - 伽音さん» ありがとうございます! そのお言葉で、私もニヤけてしまいます笑 これからも楽しんで貰えるような作品をお届け出来るよう、頑張ります。 (2020年6月4日 22時) (レス) id: 856ce52b7f (このIDを非表示/違反報告)
伽音(プロフ) - 面白くて、ニヤケながら86話を一日で読んでしまいました!良い小説ですね!お疲れ様です!これからも応援してます! (2020年6月4日 19時) (レス) id: b1d06a9201 (このIDを非表示/違反報告)
mifulu(プロフ) - ルだ子さん» 嬉しいお言葉、ありがとうございます! 楽しんで頂けたようで幸いです(´˘`*) まだ制作中ですので、もう少しお待ち下さい。 (2020年6月1日 21時) (レス) id: 856ce52b7f (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:mifulu | 作成日時:2020年4月26日 18時