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先週の金曜のことだった―――





「来週、それ着てくん?」



クリーニングから戻ってきたらしい見覚えのあるワンピースを壁のフックにかけようとしていたAちゃんに、俺はスーツのジャケットを脱ぎながらついそう訊いてしまった。



「そうだけど…なんで?」


「それ、亮ちゃんの結婚式でも着てたやろ。」


「うん、まあ。よく覚えてるね。」


「地味やなあって思ったから。」
 


からかい半分、間髪を入れずに言うとAちゃんはわかりやすく、むすっとした表情になった。

それからスタスタと台所に向かうと冷蔵庫のとびらを開ける。



今日は外は小雨が降っているから、屋上は諦めてこれからAちゃんの部屋で晩酌をするつもりだった。



「ひとの祝いごとなんだから地味なほうがいいじゃん。」


冷蔵庫を覗いているAちゃんに「ビールでいいよね?」と訊かれ、うん、と答えてダイニングテーブルの席についた。


それでもまだ、俺はテーブルに頬杖をついて壁にかけられたそのシンプルな紺色のワンピースをぼんやり眺めてしまう。



「地味っていうか、暗いやん、これ。ほかに着てくのないん?」


「式で着れるようなのはこれしかないよ。」



Aちゃんはいくらか怪訝そうな顔をしながら、冷蔵庫から出してきた缶ビールをテーブルの上に置いた。



同じリズムで缶を手に取ってプルタブを引く。

それからいつものように俺たちは小慣れたようにちいさな乾杯をして、勢いよく呷った。


晩酌をするとき、俺もAちゃんもよくしゃべる。よかったことから悪かったことまで、あらゆることを。


特に金曜は、週末に行きたいとこや食べたいものがあったら、お互い酔っ払って不真面目になったり意識が不明瞭になる前に話すことが暗黙の了解になっていた。

そういうところ、俺もAちゃんも意外と真面目でおかしく思えてくる。



「なあ、明日買いにいかへん?」


その『暗黙の了解』を思い出して、俺はつまみの漬物に箸を伸ばしながら、Aちゃんを見た。


「なにを?」


「やから、新しい服。あれの代わりの。」


まるで、まだそこに固執してたのか、とでも言いたげな呆れ笑いに似た顔をするAちゃん。


「…そんなにヘン?あれ。」


それから壁にかけられたワンピースを一瞥して、さっきより自信なさげに笑った。




。→←。



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蒼 夢見子(プロフ) - 璃実さん» 璃実様、お返事が遅くなってしまいごめんなさい…!ただのいちファンとしての勝手な主観ですが、大倉くんの強さややさしさを描けたらなと思いながら書いていたお話なので、そう言っていただけてほんとうに嬉しいです。最後まで読んでくださりありがとうございました^^ (2023年3月4日 22時) (レス) id: 4e57835bcc (このIDを非表示/違反報告)
璃実(プロフ) - 沢山の人から生真面と言われてきたので主人公とどこか重ねて読んでいました。私がそうであってほしいと思う大倉くんと、きっとほんの一部ではありますが私が見てきた大倉くんを形にしたのもがまさに夢見子さんの描く大倉くんでした。素敵なお話をありがとうございます。 (2023年2月19日 23時) (レス) @page23 id: 096fac2c00 (このIDを非表示/違反報告)
蒼 夢見子(プロフ) - 日玖さん» 日玖様、最後までお付き合いくださり、ありがとうございます。そのようなことを言っていただけて私もしあわせです……少しでも楽しく読んでいただけていたらそれだけでもうとても嬉しいです^^ありがとうございました…! (2022年3月13日 17時) (レス) id: caebde5a3d (このIDを非表示/違反報告)
蒼 夢見子(プロフ) - 美波さん» 美波様、あたたかいコメントいただけてとてもうれしいです…(涙)お話を書くのは自己満足のためとは言え、読んでくださる方がいてこそ最後まで書くことができたと思っています。こちらこそ心から感謝です……本当にありがとうございました! (2022年3月13日 17時) (レス) id: caebde5a3d (このIDを非表示/違反報告)
日玖(プロフ) - 完結おめでとうございます。ほんっとうに物語に引き込まれっぱなしで、読んでいる時間いつだってとても幸せでした…!素敵な作品を、ありがとうございました。 (2022年3月9日 22時) (レス) @page23 id: bbffd7f7da (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:蒼 夢見子 | 作成日時:2019年7月16日 0時

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