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選手交替の合図が出た。
瀬見さんが掲げるのは10番のカード。
白布さんは、どこかわかっていたような顔つきでそれを受け取った。
「……
白布さんが監督のところに行こうとすると、瀬見さんがコートの方を見ながら口を開いた。
「俺、サーブも良いとこなしで終わったからな。先輩がんばるからちゃんと見とけよ？」
生意気を叩かれては可愛くない可愛くないと言っているけれど、瀬見さんってめちゃくちゃ後輩思いだ。私にもよく話しかけてくれるし。あと名前で呼んでくれて嬉しい。
白布さんは珍しく素直に頷いた。
本当に今日はどうしたのだろうか。
「賢二郎。……わかってるな」
「……はい」
「頭を冷やせ。それだけでいい」
白布さんは黙って頷いた。
＊
白布 side
『白鳥沢は選手を交替。三番セッターの瀬見英太が入ります』
『普段はピンチサーバーとしての役割が大きい選手ですね。今回、セッターとしてコートに入ることで稲荷崎寄りの流れをどう変えるか』
コートの外側から見る白鳥沢のラリーというのは久しぶりだ。動いたからなのか、緊張感からなのか、よくわからない汗を拭って瀬見さんを見た。
ローテが動いて、今はリベロの山形さんも戻ってきた陣営になっている。守備としては最高のコンディション。
稲荷崎のサーブ。強烈なサーブを山形さんが拾って返す。
瀬見さんがボールの下に入った。誰にあげるのか、最初から決めていたかのように。
「若利！」
音のない静かなトス。……ああ。
やっぱり、上手いな。
次の瞬間、点が入ったことを知らせるホイッスルの音が鳴った。
『決めました、白鳥沢のエース、牛島若利！』
『今の一撃、強烈ですねー。エースの強打を止められなかったというのは、プレッシャーにも繋がりますからね』
強豪だから、思い出選抜とかそういうのはない。
そんなことは承知の上だし、そもそも牛島さんにトスを上げたくてここに来た。
だからといって、事実上三年生から正セッターを奪ったというそれに何も思わないのかと言われると、そういうわけでもなく。
俺は瀬見さんにはないものを持っていて、それは瀬見さんが本来欲しかったもの。だけど、瀬見さんは俺にはないものを持っているから、それが羨ましく思えてしまうときもある。
自分は決して天才ではないと知っているから。
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作者名：昆布の神
| 作者ホームページ：http://uranai.nosv.org/u.php/hp/fullmoon721/
作成日時：2024年1月12日 2時
