氷の火山【サターン】【プラチナ】 (ページ49)

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『……あの爆弾を？』

アカギからの命令に、サターンは一瞬自分の耳を疑った。

ギンガ爆弾の開発にはサターンも携わった。だからこそ、その絶大な威力を知っている。

いくら普段人気(ひとけ)のない湖だからって、使用すればシンオウ地方のほぼ全域に渡り地震のような揺れが起こるし、更に危惧されるのは湖に棲んでいるポケモン達の大量死。

感情を嫌うアカギに忠実な幹部として振る舞う一方で、サターンはアカギの思想に疑問を抱いていたし、良心を捨てきれずにいた。

さすがのサターンも、湖に爆弾を落とせと言われて、はいわかりましたと頷くことなどできるはずがない。

命令されたのがマーズでもジュピターでも、きっと同じだっただろう。
あの二人だって、自分の相棒であるブニャットやスカタンクをたいへん可愛がっているし、いくらアカギに心酔していたとしても、この事案には素直に頷けないはずだ。

『あの爆弾が無くても……アグノムを捕らえることは可能だったはずでは？』

『リッシ湖で派手な動きをすれば他の二つの湖に野次馬は集まらないだろう』

『……ですが』

『躊躇っているのか？』

感情がまるでこもっていない瞳に射抜かれ、サターンは何も言えなくなった。

アカギには全てを見抜かれていた。爆弾を投下し、大量のポケモンを殺す恐怖。きっと後にやってくるであろう後悔。ポケモンへの情け。

それら全てがアカギには不要物と見做(みな)された。アカギが目指す新世界にとって邪魔なものなのだと一蹴された。

アカギへの畏怖から反論をしなくなったサターンに追い討ちをかけるかのように、わざとらしくアカギが『ああ、それと』と口を開いた。

『今まで散々泳がせてやったが、もう十分だろう。今日の夜までにウラヌスを捕らえて拘束しろ』

＊

「何もかもが急な命令だった。でも恐ろしいことに、私はその二つの命令を完遂した。数年間隠してきた発信機の存在を手がかりにAを連れ戻し、何食わぬ顔を演じて湖を爆破した。……いちばん怖いのは、あの人ではなく私だったのかもな」

自分はこれほどまで無情な人間だったのかと自分が怖くなった。しかし、その無情こそアカギの思惑であり、意志ポケモンであるアグノムにはそれがわかっていた。

どこか俯瞰的に物事を見ている気がするアグノムの目は、サターンにとっては都合が悪い。でも逃げ出してはいけない。なんとも矛盾じみたことだった。