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「……何故」
「なんか、いつの間にか
Aがそう言うと、サターンは力なくゆっくりと胸ぐらを掴んでいた手を離した。
そして、呆れてしまったかのように、その手で目を覆う。
「……ふざけるな。お前は、どうしてそう……」
サターンが息を震わせる。初めて見る彼の姿から、Aは目を逸らさなかった。
「……警察に突き出してしまえば良かったものを。
もしも、お前が国際警察に嘘をついていることがバレたら、今度こそ処分されるのはお前だというのに……」
そんなこと、Aだってわかっていた。
けれど彼女にだって、自分のすべてを投げ出してでも守りたいものがある。
「それなら、私は───……どうやって、お前に償えばいい?」
え、とAから小さく驚きの声が出た。
Aは償いなど求めていない。
守りたくて守った。それだけだ。
「……ずっと後悔していた。お前を組織に入れたこと。あのとき私がお前を引き入れたりしなければ、お前は余計な負の感情を抱くことはなかった」
本当に申し訳なく思っているような
「だから、お前が私に情を抱かないようにしていたのに。……私はどこでまた道を間違えたのか」
「でも、ここにいなかったら新しい世界を知ることなんてなかった」
Aは言う。
間違った方法だったのかもしれない。
だが、サターンがあのとき手を差し伸べてくれなければ、Aはあのまま凍死していた。ギンガ団にいなければ、コウキから新しい世界を学ぶこともなかった。
「生きて、新しい世界を知れて良かった。余計な感情だったなんて言わないで。それに……サターンが私のこと気にかけてくれてたなら、もう、それでいい。いいから……」
見限られたと思った。捨て駒にされたと思った。
でもちゃんと、サターンはサターンのやり方で守ってくれていたのかもしれない。それがどんなに都合のいい解釈だとしても、サターンの監視は結果的に嘘でもAのギンガ団での居場所を守ってくれていたのだ。
「サターンがここにいてくれるなら、私もいる」
十六歳の少女のまっすぐな瞳に、思わずサターンは狼狽えた。
これは誘惑だったのだ。
国際警察が来て、捕まれば、きっともう二度とAと会うこともない___。そう思っていたサターンにとって。
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作者名:昆布の神 | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/fullmoon721/
作成日時:2023年1月26日 20時