エーデルワイス【1st】【グルーシャ】 (ページ40)

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〈五章〉月冴ゆるページ40

*

「それが気になりますか」

後ろからいきなり校長先生の声が聞こえて、小さく肩が跳ねた。振り返ると、校長先生は穏やかな笑みを浮かべて立ち竦んでいた。

「気になるっていうか……」

「ええ、分かります。不自然極まりないですよね……。こんなところに一枚」

「先生もそう思うんですか？」

「実は、私は一年前からここに異動してきた新参者なんです。なので、長いアカデミーの歴史の全てを知っているわけではなくて……」

「そうですか……。……随分、綺麗に保管されてますよね……」

ポツリと、呟くように言うと、校長先生も「そうですね」と頷いた。

「しかし、彼女(・・)のことは、一応データには残っています。それに、最近はアカデミーにも研究者としてよくいらしていますよ」

「研究者？じゃあ、この賞って……」

「夏休みの自由研究で、学校の代表として出品したものが最優秀賞として評価されたそうです。ですが、この直後、彼女はアカデミーを中退した……。賞状も受け取らずに」

「中退？留学とか？」

「いえ。その後の動向のことは、よくわかっていないんです。彼女も話したがらないですし……。学校という箱庭に囚われず新しい何かに飛び込みたかったのかもしれませんし、それとももっと単純に、学校が嫌になっただけかもしれません。……ただ一つ、確実に言えるのは」

＿＿＿＿天才の考えることは、凡人には理解できないということです。

校長先生を見上げると、先生は穏やかな笑みを浮かべつつも、その瞳の奥は笑ってなどいなかった。冷たい目をしていたわけではないし、怖くはなかったが、まるで何かを諦めてしまったかのような＿＿＿。

「……変な話をしてしまいましたね。そろそろ朝礼の時間です。教室まで案内しますよ」

「……。…………はい」

＊

アカデミーに転校してから数日が過ぎた。もうすぐ〈宝探し〉という課外学習が始まるらしいが、それ以外は授業を受けて勉強するだけの、ごく普通の学校生活だ。

アカデミーを拠点にして研究者として活動しているというAサンには、会ったことがない。
校長先生曰く、拠点にしているとはいえ、アカデミーにいる時間よりもフィールドワークの時間の方が長いらしい。

「じゃ、ハルト。私購買行ってくるね！」

「ん」

昼休み。昼食を買いにアオイは購買に駆け込んでいった。学食でも食べられるが、どうやら今日は限定品のプリンが購買で売られるらしい。