第百九十話 ページ49
アシリパさんの表情が曇っていくのはもちろん、私たちも彼女に世話になった身だ。彼女のことが気がかりで正直落ち着いて話を聞けるような心情ではなかった。
「婆ちゃんが『二度と孫と会えなくなる夢を見た』って…たかが夢だろ?手紙でも送っておけよ」
「夢というのは、カムイが私たちになにか伝えたくて見せるものと強く信じられてきた。私は信じなくても、フチは古い考え方のアイヌだから…それにフチは昔ある夢を見た。
自分の娘の周り熊がたくさん集まって…『送っている』夢だった」
「お婆さんの娘…それってつまり、」
「ああ、そのあとすぐに私の母は病気で亡くなったとフチが話していた。だからなおさら夢占いを信じてるんだ」
その暗く俯く彼女の顔を、杉元さんが一度しっかりと見つめる。
「アシリパさん…一度帰ろうか?一度顔を見せりゃ『孫娘とは二度と会えない』ってフチが見た予言は無効だろ?元気になるさ」
本人は微笑んだつもりなのだろうか。その笑っているともいえない彼の顔を、アシリパさんは少し不安そうな顔で見つめる。
「我慢しなくっていいんだよ?」
もう三か月ほど経っただろうかずっと一緒に暮らしてきていた肉親に逢えないのも彼女にとってつらいだろう。
だが彼女の顔は既に決意で固まっていた。
「子ども扱いするな杉元!!私にはどうしても知りたいことがある。知るべきことを知って自分の未来の為に進むんだ!!」
そのまっすぐな青い瞳を見た彼の顔は、正真正銘の微笑みへと変化した。
さて、先へ進むことが確定したとして問題はその次だ。
「白石たちとは別れる前に釧路の街で落ち合おうと約束しておいたから、三人はもう向かっているかもしれないですね。はやくインカラマッたちに谷垣の元気な姿を見せたい」
「銃も壊れたし修理に出さないとな」
「銃身に水が入った状態で撃つとはな…軍隊で何を教わってきたのか」
尾形が呆れたようにそう呟くと、杉元さんは彼をキッと睨みつける。もうこれは恒例の喧嘩が始まってしまう。
「その最新式の小銃、俺が気球乗る時に第七師団から奪い取ったやつじゃん。返せよ」
「これは三八式歩兵銃だ。この表尺を見ろ、2400米まで目盛りがあるな?お前の三十年式は2000米まで…この銃から採用された尖頭弾の三八式実包なら2400米先にまで弾が届く……」
「だから何だよ」
「お前が使っても豚に真珠ってことだ」
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ほほいほい(プロフ) - 烏羽さん» ありがとうございます。コメントを頂いたのが初めてなので嬉しい限りです。これからも応援していただけますよう精進いたしますので、どうかよろしくお願いいたします…! (2021年9月26日 21時) (レス) id: a999479a6f (このIDを非表示/違反報告)
烏羽(プロフ) - 思わず一気読みしてしまうぐらい最高でした!応援してます! (2021年9月26日 19時) (レス) id: 9dd84298a0 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ほほいほい | 作成日時:2021年9月22日 23時