第百六十話 ページ19
淀川の目の前に札束を叩きつけると、奴の顔は青ざめ息はどんどん上がっていく。
「こんな大金……どういうつもりですか？このカネで白石を売れとでも？」
「いいえ。それは贋札です。こっちは原板…天才贋作半の熊岸長庵から押収したものです」
その札束と鈴川が掲げた原板を見ると、心臓が刺されたようにチクリと傷んだ。しかしそれを悟られてしまっている場合ではない。顔を動かさず、私は黙って目を伏せる。
「樺戸から逃げたところを我々が確保している。アメリカ独立戦争時の『大陸紙幣』やナポレオンによる『オーストリア紙幣』をご存じか？
戦争時にて敵国の贋札をバラ撒き経済を混乱させる手段は非常に有効だ。
熊岸長庵はどこの国の紙幣だろうが精巧なものを作るでしょう。今後の日本軍にとって有益な人材に違いないと思うが……興味はございませんか？」
…流石網走に収監されていただけの事はある。もう既に淀川は虫の息だ！私たちは思わず息をのんでその話術を見守っていく。
「熊岸と白石を交換しましょう。淀川中佐……日露戦争が終わって中佐だった他の聯隊長は次々と『大佐』に昇進しているのに…あなたはいまだに『中佐の聯隊長』だ。冷遇されていると思いませんか？
これはあなたの手柄だ」
原板と共に、奴の心まで指で押されているようだ。肩で息をする奴はもう陥落されたのと同じ。
ーーそして、部屋の扉が開いた。
部屋の入口から見えたその変わらない姿を、この目でしっかりと見つめる。思わず口をきゅっと結んでしまった私とは正反対に、彼は私たちを見た瞬間ポカンと口を開けた。
「え？なにこれ、どういうこと？」
事情も聴かされず急に連れてこられたのであろう。その顔のまま彼はゆっくりと私たちに近づく。
「熊岸長庵を連れた部下が待機しています。熊岸と白石の交換は外で行いましょう。網走監獄の一件でこちらとしても疑り深くなってますゆえ…」
もちろん熊岸はいない。引き渡すのは鈴川に金で雇われた代わりの男だ。白石さえ取り戻せば後の事はいい。白石に近づこうと一歩踏み出した瞬間、彼も気づいたのか私の目を見る。
その瞬間、突然扉が開き、見知らぬ青年が軍帽を持ちながら入ってきた。
年齢は私と同じくらいだろうか。眉毛が非常に特徴的な形をしているが、それを感じさせないほどの美形、そして褐色の肌を持つ青年は、その真っ黒な目で私たちを見つめた。
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ほほいほい(プロフ) - 烏羽さん» ありがとうございます。コメントを頂いたのが初めてなので嬉しい限りです。これからも応援していただけますよう精進いたしますので、どうかよろしくお願いいたします…！ (2021年9月26日 21時) (
レス) id: a999479a6f (このIDを非表示/違反報告)
烏羽(プロフ) - 思わず一気読みしてしまうぐらい最高でした！応援してます！ (2021年9月26日 19時) (レス) id: 9dd84298a0 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：ほほいほい | 作成日時：2021年9月22日 23時
