第百五十九話 ページ18
ある一室で、杉元さんと私と、そして犬童に化けた鈴川が待つ。扉が開かれれば私たちは立ち上がり目の前に立つ男…淀川中佐に挨拶を交わす。
「網走監獄典獄、犬童四郎助です。はじめまして」
「…イヌドウ」
「…ヨドガワ」
もちろん、私と杉元さんは正体がばれてしまうため、この目と鼻の孔と口以外は真っ白な覆面で覆われている。私の刀に関しては外で偵察をしている尾形に(一瞬戸惑われたが)預けてきている。もちろん短刀を懐に残してだが。
「あの…こちらの方は?」
「網走監獄で看守をやっている杉元と近藤です。5年前家永という凶悪犯によって、杉元は顔をズタズタに食いちぎられ、助けに行った近藤も巻き添えになってしまいましてね。見た目はこんなですが、二人とも私の優秀な部下です」
「イヌドウ…」
「ヨドガワチュウサ…」
「はあ…お気の毒に」
淀川は青ざめた顔を一気に切り替えると、犬童の方へと顔を向ける。
「ところで……実を言いますと、『はじめまして』ではございません」
「……。これは失礼いたしました。以前どこかで?」
早速ぼろが出てきてしまったことに冷や汗が出る。どくどくと脈打つ体を必死に抑えていると、淀川はにっこりと笑いだした。
「10年以上前に知人の葬式で一度ご挨拶だけ…覚えてらっしゃらないのも無理はありません。弔問客でごった返していましたので」
さほど重要ではない情報にほっと胸をなでおろすと、犬童はしてやったりとでも言いたげな目線をこちらに向ける。淀川に案内され向かい合って席に付けば、こちらの作戦は始まる。
「それで…きょうはどういったご用件で?」
「白石由竹が……こちらにいると聞きました。身柄を網走監獄に返してほしい」
それを聞いた瞬間奴の顔が青ざめる。
「白石?そんな男はここにおりませんが……」
「とぼけないで頂きたいッ」
頭に血が上る犬童…もとい鈴川の頭を杉元が撫で落ち着かせる。もちろんこれも作戦のうち…だったはずだ。
「私が出張で網走監獄を留守にしているすきを見計らって不法に囚人たちを移送した挙句…全員を逃がしたあなた達第七師団の尻拭いをしているのですよ!!聯隊長殿!!」
この時点でも相手を十分に揺さぶっているが、鈴川はこれでは止まらず更に畳みかけていく。
「金塊なんぞ本当にあるとお考えか?集団脱獄の方便というのが私どもの見解ですが……第七師団はまんまと引っかかったようですな」
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ほほいほい(プロフ) - 烏羽さん» ありがとうございます。コメントを頂いたのが初めてなので嬉しい限りです。これからも応援していただけますよう精進いたしますので、どうかよろしくお願いいたします…! (2021年9月26日 21時) (レス) id: a999479a6f (このIDを非表示/違反報告)
烏羽(プロフ) - 思わず一気読みしてしまうぐらい最高でした!応援してます! (2021年9月26日 19時) (レス) id: 9dd84298a0 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ほほいほい | 作成日時:2021年9月22日 23時