第百五十五話 ページ14
「尾形見て来いよ。お前第七師団だろ?」
「………おれはいま脱走兵扱いだ」
「キロランケは?元第七師団だろ?」
「俺はカムイコタンで顔を見られた」
思いつく限りの案を出すものの、どれもどこかに障害がついて一筋縄ではいかない。悩む全員の頭の中に、白石の変顔が浮かぶ。そして、全員の顔がこう物語っていたのだ。
まあ……いいか……
「あいつの入れ墨は写してるし」
「……いやだ、」
無意識にそう口に出してしまい、もう周りのみんなには嘘を突き通すことができないことを悟る。
「だって、白石がいないと…アシリパさんはのっぺらぼうに会えない!!」
時間がないのはわかっている。それでも、それでも、
「私は…私だけでも行く気だ」
「いや……俺も助けたい」
その声がした方を向く。杉元さんの顔を。裏切り者である彼を助けたいと、あなたが言うと思っていなかったから。
「杉元さん…」
「この詐欺師を使おう」
そう言って彼は鈴川を前に出す。私の目に、数年ぶりの涙が浮かんだ。
***
男が一人、森の中を走っていた。
「はあッ…はあッ…みず……」
男は近くにあったフキの葉を摘み、そこに川の水をくむ。それを飲もうと傾けたところ、突然葉が弾けた。
「逃げろ逃げろ」
銃を構えた者が一人。
そして男が走り出すと、目の前に一本の弓が通り抜けていく。
「そっちじゃないぞ」
男が悲鳴を上げながら建物へと逃げ込んでいく。
「エンカ オピウキ ヤン!悪い奴に追われてるッ」
「悪いやつぅ?どんな連中だ?」
キロランケ殿が煙草を蒸かしながら男を見つめると、煙管を逆さにし男の足に灰を落とす。男は水を求めて歩き出すと、後ろから杉元さんが銃剣を尻に刺した。ひーッ!!と男が情けない悲鳴を上げて建物から逃げ出したところを、土方さんが足を引っかけて転ばせる。そして倒れた鈴川の上に牛山が乗っかれば、鈴川は苦しそうな悲鳴を上げた。
「おい、逃げようとするな」
「サルカニ合戦か!!」
全員が逃げ出した鈴川を追いかけてその場に集まった。その中でも尾形は特に近くへと行き、彼の目の前に座り込んで銃を前に出す。
「鈴川聖弘よ、この三十年式歩兵銃の表尺を見ろ。二千メートルまで目盛りがあるな?二千メートル先まで弾丸が届くってことだ。二千メートル以上俺から逃げ切れるか試してみるか?」
尾形の脅しが効いたのか、鈴川はその場で動かなくなった。
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ほほいほい(プロフ) - 烏羽さん» ありがとうございます。コメントを頂いたのが初めてなので嬉しい限りです。これからも応援していただけますよう精進いたしますので、どうかよろしくお願いいたします…! (2021年9月26日 21時) (レス) id: a999479a6f (このIDを非表示/違反報告)
烏羽(プロフ) - 思わず一気読みしてしまうぐらい最高でした!応援してます! (2021年9月26日 19時) (レス) id: 9dd84298a0 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ほほいほい | 作成日時:2021年9月22日 23時