検索窓
今日:17 hit、昨日:0 hit、合計:16,581 hit

第百四十二話 ページ1

男が快く私たちを村の中に案内していると、杉元さんは彼に話しかける。

 「あんたも日本語うまいね」

 「俺は若い頃和人相手に荷揚げの仕事をしていておぼえた。山奥で砂金堀りやってる和人たちへ物を届けるんだ。船に米とか塩とかいっぱい積んで川の上流へ運び上げてね」

 「あ〜はいはい…俺も砂金掘りやってたから知ってる」

 そんな雑談を続けていると、牛山は気になる物があったのか遠くを指さした。

 「オイなんだあれ」

 彼が指していたのはアシリパさんの村でも見たものだ。丁度子熊を連れ帰ったときに…

 「あれは子熊を育てるための檻で、あの中に子熊が…」

 だがその檻をまじまじと見ると、ありえないことが起こっていたのだ。杉元さんもそれに気が付き、「え?」と声を上げる。

 その折の隙間からは熊の毛がはみ出す程に熊は育っていて、檻は今にも壊れてしまいそうにギシギシと音を立てていた。

 「おかしい…ここまで育てるものなのか…?」

 男は私の問いかけに、ため息交じりで答える。

 「ちょっと子熊が大きくなるのが早くてな、大きいオリを作って移すところだった。気にしないでくれ」

 その発言に少し引っかかるところがあり、確認のためアシリパさんの顔を見る。だが彼女の表情は何一つ変わらず、平然とした様子だった。地域が違えば信仰も違うこともある。私はそう思うことにし、その場を後にした。

 「俺はエクロク。俺の父であり村長のレタンノ エカシに滞在の許可をもらうといい」

 そう言って連れてこられたのは一つのチセだ。アイヌでの作法を知らないであろう牛山達に、杉元さんはそれらについて教える。

 「アイヌの家を訪問するときはいくつか作法があるんだ。俺たちはこれまで何度かやってるから」よく見ておけ。騒ぎを起こしたくなければ行儀よくしろよ、特に尾形」

 名指しされたものの、彼は返事すらしなかった。やはり彼にはすこし不安なところがあるため、なるべく近くで待機していた方がいいだろうと考える。

 それは置いておくとして、杉元さんは「ハ エエエ…」と独特な咳払いをする。それに合わせて私も小さく咳ばらいをした。

 「まず家の外で咳払いをする。家の人にすみませ〜んなんて声はかけてはいけない」

 杉元さんの咳払いを聞いたのか、家の中から若い男が一人出てくるが、すぐにまた家の中へと引っ込む。それを見た牛山は少し困惑した様子だった。

第百四十三話→



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 10.0/10 (24 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
39人がお気に入り
設定タグ:金カム , 逆ハー
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

ほほいほい(プロフ) - 烏羽さん» ありがとうございます。コメントを頂いたのが初めてなので嬉しい限りです。これからも応援していただけますよう精進いたしますので、どうかよろしくお願いいたします…! (2021年9月26日 21時) (レス) id: a999479a6f (このIDを非表示/違反報告)
烏羽(プロフ) - 思わず一気読みしてしまうぐらい最高でした!応援してます! (2021年9月26日 19時) (レス) id: 9dd84298a0 (このIDを非表示/違反報告)

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:ほほいほい | 作成日時:2021年9月22日 23時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。