第百四十二話 ページ1
男が快く私たちを村の中に案内していると、杉元さんは彼に話しかける。
「あんたも日本語うまいね」
「俺は若い頃和人相手に荷揚げの仕事をしていておぼえた。山奥で砂金堀りやってる和人たちへ物を届けるんだ。船に米とか塩とかいっぱい積んで川の上流へ運び上げてね」
「あ〜はいはい…俺も砂金掘りやってたから知ってる」
そんな雑談を続けていると、牛山は気になる物があったのか遠くを指さした。
「オイなんだあれ」
彼が指していたのはアシリパさんの村でも見たものだ。丁度子熊を連れ帰ったときに…
「あれは子熊を育てるための檻で、あの中に子熊が…」
だがその檻をまじまじと見ると、ありえないことが起こっていたのだ。杉元さんもそれに気が付き、「え?」と声を上げる。
その折の隙間からは熊の毛がはみ出す程に熊は育っていて、檻は今にも壊れてしまいそうにギシギシと音を立てていた。
「おかしい…ここまで育てるものなのか…?」
男は私の問いかけに、ため息交じりで答える。
「ちょっと子熊が大きくなるのが早くてな、大きいオリを作って移すところだった。気にしないでくれ」
その発言に少し引っかかるところがあり、確認のためアシリパさんの顔を見る。だが彼女の表情は何一つ変わらず、平然とした様子だった。地域が違えば信仰も違うこともある。私はそう思うことにし、その場を後にした。
「俺はエクロク。俺の父であり村長のレタンノ エカシに滞在の許可をもらうといい」
そう言って連れてこられたのは一つのチセだ。アイヌでの作法を知らないであろう牛山達に、杉元さんはそれらについて教える。
「アイヌの家を訪問するときはいくつか作法があるんだ。俺たちはこれまで何度かやってるから」よく見ておけ。騒ぎを起こしたくなければ行儀よくしろよ、特に尾形」
名指しされたものの、彼は返事すらしなかった。やはり彼にはすこし不安なところがあるため、なるべく近くで待機していた方がいいだろうと考える。
それは置いておくとして、杉元さんは「ハ エエエ…」と独特な咳払いをする。それに合わせて私も小さく咳ばらいをした。
「まず家の外で咳払いをする。家の人にすみませ〜んなんて声はかけてはいけない」
杉元さんの咳払いを聞いたのか、家の中から若い男が一人出てくるが、すぐにまた家の中へと引っ込む。それを見た牛山は少し困惑した様子だった。
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ほほいほい(プロフ) - 烏羽さん» ありがとうございます。コメントを頂いたのが初めてなので嬉しい限りです。これからも応援していただけますよう精進いたしますので、どうかよろしくお願いいたします…! (2021年9月26日 21時) (レス) id: a999479a6f (このIDを非表示/違反報告)
烏羽(プロフ) - 思わず一気読みしてしまうぐらい最高でした!応援してます! (2021年9月26日 19時) (レス) id: 9dd84298a0 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ほほいほい | 作成日時:2021年9月22日 23時