第八話 ページ10
「…随分と腕の立つやつなんだな。」
「ああ。あとで知ったが、三十年前の箱館戦争で戦った敗残兵らしい。
旧幕府軍の侍だ。」
箱館戦争、旧幕府軍、その単語を聞いて私の心臓は大きく動きを変えた。炎が近くにあるのに、体の末端から徐々に冷たくなっていくのを感じる。
「…そんな、まさか、」
「これはあくまで噂だがね…看守が話しているのを盗み聞きした奴がいる。」
祖父に憧れ、父に何度もその話をしてほしいとわがままを言った。残された写真を何度も眺めた。祖父に少しでも近づきたくて、何度も同じ剣の稽古をしてた。
もう祖父を近くで見ていたものはいない。だから祖父の話を、もっと聞きたかったけど叶わなかったこと。絶たれたはずの私の夢は
「あのジジイは箱館戦争で戦死したと言われてる…新撰組鬼の副長
土方歳三 だって…」
もう一度、道が繋がったのだ。
「最後にひとつ教えてやる。俺たち囚人はのっぺら坊にこう指示されていた。『小樽へ行け』」
男が上着を取りそれを着ると、私達の元から去ろうとする。その後ろ姿を見つめながら、杉元さんは口を開いた。
「白石と言ったな？次に会う時はその入れ墨を引っぺがすぜ。アイヌの金塊は諦めて、さっさと北海道から脱出するんだな。その入れ墨を狙っているのは他の囚人達やのっぺら坊の仲間だけじゃねえ。
日露戦争帰りの大七師団も狙っているんだ。戦い慣れた歴戦の戦士達だぞ
きっとやつらは…捕まえた囚人をカンキンしたり、入れ墨を模写するような面倒なマネはしねぇ。殺して皮一枚にするのがいちばん合理的なんだ。刺青人皮はメシも食わねえし持ち運びも楽だし、テメェみたいに逃げ出すこともないからな。」
杉元さんの忠告を聞いてもなお、男…白石はその得意げな顔を崩さず、人差し指を天に掲げて不敵に笑った。
「俺は脱獄王だ 誰に捕まろうが、煙のようににげてやるさ。
アバヨ『不死身の杉元』と用心棒のガキンチョ。」
白石の姿が見えなくなるのを確認すると、杉元さんは私の顔を見る。
「…お前の爺さんのかつての仲間が敵に回ったが、Aは……
いや、その様子だと大丈夫そうだな。」
私は、楽しみで仕方がないのだ。祖父の一番近くにいた人間に会える。話を聞ける。そして、剣を交えることができる。
今も生きているかわからないけど、ここまできてその希望を捨てたくはない。
「行きましょう杉元さん。アシリパさんが待っています。」
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作者名：ほほいほい | 作成日時：2021年8月26日 23時
