第六話 ページ8
杉元さんと二人で男を追いかけるが、アシリパさんは焦ったような声で私たちに叫ぶ。
「二人とも、深追いするな！天候が…」
「アシリパさんは小屋に向かってろ。必ず捕まえてくるから！」
杉元さんがそう叫び、崖下を覗く。男は既に崖に掴まり下へ降りようとしていた。
「この野郎…ッ」
「すみません…私の剣じゃ、あの位置には…」
すると杉元さんが銃を咄嗟に構え、男に銃口を向けた。
「戻ってこい、撃つぞ！」
「やってみろッこっちはいま撃たれるのもあとで撃たれるのも一緒だ！」
その直後、あたりに銃声が響く。撃ってしまったのかと思わず彼の銃口に目を向けるが、煙は出てこない。
他に銃を撃ったものがいるのだろうか？二人で当たりを確認するが、異常は見られない。その後崖を降り男を置い、雪道の上を走り出す。
「待てこら！」
「諦めが悪いぞ！早く止まれ！」
すると突然目の前に居たはずの杉元さんが落ちた。いや、落ちたのではない。足元を見ると、杉元さんが埋まっていたのだ。
「あ？」
咄嗟に足を止めたが間に合わない。私も男も、三人を巻き込んで足場が崩れ出した。
「ぅああ！なんだこれ！」
「ここは雪庇の上だっ」
三人で叫びを上げながら、下にある川へと身を投げ出される。一瞬の間があって顔を出し息を吸うと、今まで体験したことのない寒さが私たちを襲った。
「うい…ッこれはやばいッ
うわああああああこの寒さは…やばすぎるッ」
「体温が、奪われて…ッ体が思うように…ッ」
「頭が割れそうだ！」
急いで上がったものの、一度水をかぶってしまった体は急速に体温を奪われていく。このままでは冗談抜きで死んでしまうだろう。
「火だ！すぐに火を起こさんと死ぬ…ぞ！『シタッ』を剥がして集めろ！」
「何を？」
「しら…かばの…樹皮！わた…私も集めるから…手伝え！」
しかし男も正常な判断力を失っており、近くにあった丸太を持ち出して擦り始めたかと思いきや、ぼーっとしたりし始めた。
「そうだッ銃…銃は？俺の銃はどこ行った？実包から弾丸を引っこ抜いてたきつけに発砲すれば、火花が出て着火できる！」
「あの…それってあそこでは…」
私が指を指したのは、崖の上だ。もう取りに行く時間もない。携帯していた弾薬ゴウのタマも、全て落としてしまったようだ。
「畜生ッ諦めねえぞ、絶対、生き抜いてやる
俺は不死身の杉元だッ」
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作者名：ほほいほい | 作成日時：2021年8月26日 23時
