第四十五話 ページ47
「杉元さんどこへ？こっちは丸腰で抵抗は…」
雪道を全力で走る。鼻血で塗れた顔は呼吸がしづらいが、ここで止まって仕舞えば命が奪われる。
「隠れて近づき奴らの隙をついて…アシリパさんを取り戻す！！」
「谷垣！！二人が逃げたぞぉ！！」
二瓶の声だ。私達は逃げたことが知られると厄介だ。早く進んで先回りをしなければ。
「どっちだ？」
「こっちだアホ」
全力で走って、走って、走って…
ようやく見えたのは、首から夥しい量の血を流しながら倒れた二瓶にと、そのそばでおとなしくしているあの犬だ。二瓶は既に戦える状態ではなく、その木にアシリパさんがぶら下げられている。彼女に駆け寄り、縄を解いた。
「アシリパさん、どこも怪我はありませんか？」
「ああ、私は大丈夫だ…だが…」
彼女の目線の先には二匹の狼。お互いの毛繕いをしている様子から、彼らは番いなのだろう。それを見た白石はポケットから包みを取り出すと、中に入っていた飴を一つ口に含んだ。
「スウィートだぜ……」
「は？」
「あ、飴だ！私にもくれ！」
「飴好きなのぉ？はいAちゃんあーん」
あーんと口を開けると、どこからともなく遠吠えが聞こえる。近くにいるレタラと番の狼のものではない。随分と遠くから聞こえてくるものだ。
「別の遠吠えだ！しかもこれは…」
音のなる方向を見ると、四匹の狼が現れる。レタラと同じ白い毛皮を持つ狼もその中にいた。
「レタラ…お前家族が…」
あの夜オソマの父から聞いたレタラの話を思い出す。彼がアシリパの元をさったのは、家族の元へ行くためだったのだろう。恐らく彼女もそれを理解し、安堵の表情を見せた。
そこへ一つの足音が近づいてくる。大きな木の枝を支えにし、谷垣がここまで歩いてきたのだ。右足の膝下の歯分厚い包帯を巻き、呼吸もかなり荒い。姿を見た時は警戒したが、彼に戦う力は残っていないだろう。
彼は既に息を引き取った二瓶の目の前へしゃがむ。
「コレヨリノチノ ヨニウマレテ ヨイオトキケ」
「マジでこいつら連れてくの？」
「死にかけてるのに置いてけない。アイヌ犬もほっとけばいつまでもあそこにいる」
谷垣を担架に乗せ、村へと運ぶ。杉元さんは二瓶の皮を取っているところだ。
「疲れた〜杉元が追いつくまで俺はここで休むぜ」
「じゃあ私が持つ。置いて行くぞ白石？」
「ええ〜」
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作者名：ほほいほい | 作成日時：2021年8月26日 23時
