第四十話 ページ42
「どうして私たちがここに来るとわかった？」
「ここしか知らねえもん」
「そうか…白石はトドマツの小屋は知らなかったな。」
「おやおや？そいつは鹿の毛皮か？獲れたのかい？丁度いい時に来たようだな」
そういうと彼は小屋の奥へと戻り、顔の大きさぐらいの大きな瓶を持って戻って来る。
「手土産に酒を持ってきたんだ。新鮮な鹿肉に美味い酒！今夜は宴だな！！」
それを見ると杉元さんは今までにないくらい穏やかな顔でにっこりと笑う。
「ほんとうにいい時にきたな白石」
彼が意味も知らずに首を傾げる。次の瞬間には脳みその試食会だ。
「うまいか？杉元」
「ヒンナ」
「うまいか？ナマエ」
「ヒンナです」
「うまいか？白石」
「肉は？」
肉を待ち続ける白石の前に、とても重量のあるものが置かれる。
「鹿の肺だ。これも生で食べる」
虚無の顔で肺に齧り付く杉元さんを、白石さんはただ悲しそうな顔で見つめていた。
「次はチタタプを食べさせてやる」
「チタタプ？」
「でましたチタタプ！！」
「よかったな白石、肉が食べられるぞ。」
しかし出されたのは細長いものだった。
「鹿のチタタプはセウリといって、主に鹿の気管を使ったものを言う。」
ナイフを二つ渡され、白石は気管を叩いて細かくしていく。
「チタタプって言いながら叩くんだぞ白石」
「肉が食いたいんだけど…」
「チタタプって言えぇ！！」
急に大きな声を出され得るものだから驚いてしまった。よく見るとアシリパさんは片手に酒瓶を持ち、顔が真っ赤になってしまっている。
「あ……！！勝手に飲んでる！！」
「白石がウジウジうるさいから鹿の背中の肉を食わせてやる。鹿の肉で一番いい部分だ。お前らみたいな都会のもやしっ子でも食えるように塩をふって少し炙っておいたぞ。食えオラ！！」
「お上品なシサムじゃなくてもやしっ子って言っちゃったよ。」
「これは美味そう。いただきます！」
やっとありつけた肉をありがたく頂く。
「はぐはぐはぐウマイッ」
「多少の臭みがあるが、柔らかい肉だなぁ〜これは酒に合うぜ！！」
「逃げ回って不味くなるって聞いてましたけど、この状態でもかなり美味しいですね。鹿肉ってこんなに美味しいのですね。」
酒も進み、みんなも気分が良くなってきているのだろう。こうしていると金塊を巡って戦っているとは思えないくらいだ。まるでただの…
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作者名：ほほいほい | 作成日時：2021年8月26日 23時
