第二十七話 ページ29
「この場を生き延びる方法がひとつだけある。私の下につくことだ。」
先程の穏やかな表情とは一転し、杉元はずっと男を睨みつけている。
「私は部下を戦争でたくさん失った。人手が足りん。100名弱の人員が北海道各地に散らばり活動しているに過ぎない。」
「金塊を山分けするにはお仲間が多すぎやしないかい？」
「金塊は軍資金だ。旭川からちょろまかした武器弾薬では心許ない。」
「あんたらいったい何をする気だ？」
「アメリカ人から武器を買う。世界中から集めた最新式だ。手始めに第七師団をのっとり…本州に送る天然資源の通り道である主要な港町を制圧。
北海道を手に入れる。
戦場では英雄だったのに故郷へ帰れば放浪生活。何か報われたか？失ったものの方が多くはないか？
…それに、この話はお前も例外ではない。」
「…え？」
その真っ黒で光のない目に見つめられる。
「確か…お前の兄は日露戦争に参加していた筈だ。」
「…！」
こいつ、そこまでわかっているのか。
「君のお兄さんはそれはそれは強かった…実際に近くで見たことがある。しかし…彼は怪我を負い、感染症で亡くなってしまった。日本に戻り、家族の姿をもう一度見ることも叶わず。」
「……それが、なんだって言うんです？兄の代わりになれと？冗談じゃない。」
「あの蕎麦屋での剣捌き、只者ではない。きっと私が想像できないほどの努力を重ねてきたのだろう。それとも、近藤勇という優秀な血を継いでいるのもあるのかな？」
「…褒められたところで私は懐柔などされない。」
「だがどれだけ剣の腕を上げたところで、君はどこに辿り着く？」
「…どう言う意味だ？」
「君は『女性』だ。どれだけ剣の腕を磨いたところでそれを活躍させる道を用意されていない。君が費やしてきた時間も全て無駄になって終わる。」
「…黙れ！無駄になるかどうかは私が見つける…」
「君が私に手を貸してくれれば、その剣の腕を十分に活かす場を与えよう。」
瞬間、私の頭に雑音が流れる。
『Aちゃん、言いにくいことなのだけれど、あなたは女の子で剣は使えないの。』
「わた…しは、」
「私は君達のように勇敢な兵士が欲しい。我々と共に戦ってくれ」
「付き合ってられん」
震えて答えが出せない私を横に、杉元さんははっきりそう言ったのだ。彼は、彼の瞳は…
あり得ないほど、真っ直ぐだった。
「ロウソクボリボリしちゃおうか」
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作者名：ほほいほい | 作成日時：2021年8月26日 23時
