第十七話 ページ19
「この家に他のご家族は…？」
杉元さんの言う通り、確かに他には人は見えない。やっぱり窓から覗いている人たちだけだ。
「フチだけだ。別のチセにおじ夫婦がいる。エカシは6年前に病気で死んだ。母は私を産んですぐに病気で死んだからよく知らない。」
「…………」
彼女の境遇に、とても身に覚えがあった。私の母も、私が生まれてからすぐに死んでしまったらしい。本当に小さい頃だったので、記憶にもない。アシリパさんが、前よりもずっと近いものに見えてきたのだ。
そんなことを思っていると、続けてお婆さんが話し始める。これも、アシリパさんが丁寧に訳して私たちに伝えてくれる。しかし、訳しながらも彼女の顔は不満げになっていった。
『アシリパは山に入ってばかりで女の仕事ができない。縫い物や織物も女の仕事が出来ない女はアイヌの夫を持つこともできない。もうすぐ入れ墨すべき年であるのに嫌だと言う』
すると元々不満げな顔は呆れに変わり、鼻から大きなため息を出した。
「入れ墨は嫌だって言ってる女の子は他にもたくさんいる。フチは古い！」
するとお婆さんは杉元さんに何か言い始めるが、アシリパさんは訳してくれない。何やら頼み事のように見えるが何を言っているかまでは感じ取れない。
「お婆ちゃん俺になんだって？」
アシリパさんの顔を見ると、どこか赤い。彼女は照れているのだ。その光景が微笑ましく、思わず顔が緩んでしまう。こうもわかりやすい顔をされてしまうと、流石に何を言いたかったのか大方察しがついてしまう。
「うんこ食べちゃ駄目だって」
「うんこじゃないですよ〜？お婆ちゃん！味噌なんですよ〜？」
「ははっ、杉元さん相当アシリパさんに気にいられてますね！」
「やめろナマエ！ぜんぜんフチと言っていることがちがう！」
すると、いつのまにか小さい女の子が近くまで来ていたことに気づく。私と杉元さんの耳をじっと見ると、杉元さんの方を指さした。
「シンナキサラ」
「なんだい？」
「私達と違う変な耳だと言ってる。アイヌの耳たぶは丸くて厚い。」
確かに彼女達の耳を見ると、少し福耳のような形をしている。
「おい変な耳」
「わあ、すごい流暢な言葉ですごいこと言ってきた。」
さすがに初対面でそんなことを言われると驚いてしまうものだ。
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作者名：ほほいほい | 作成日時：2021年8月26日 23時
