第九話 ページ11
「ウサギを食べよう。」
アシリパさんの元に戻り、地面に何か落ちているなと思ったらウサギの死骸だった。ウサギはアイヌでは「イセポ」と呼ぶらしい。彼女がウサギを手早く解体していき様を、杉元さんは始終死んだ目で見つめていた。
「イセポは大きさの代わりに食べるところが少ないからチタタプにする。」
「出た！チタタプ」
「耳の軟骨も食べる。皮を剥いて他の肉や内臓と一緒にチタタプにする。」
「なるほど。捨てるところはださないんですね。」
「どうしてエゾウサギは耳の先だけ黒いのか…私達に伝わる昔話にこういうのがある。」
アシリパさんの話を要約するとこうだ。かつてウサギのような足を持つのはシカで、それをウサギが欲しがった。人間に捕まらない為だ。そしてシカを騙してその足を手に入れたウサギは、気がついたシカに焚火の燃えさしをぶつけられ耳が黒くなってしまったらしい。
「結局人間から逃げる足を手に入れても、耳が黒ければ雪の中で見つかってしまう。意味がなくなってしまいましたね。」
「つまりそのお話の教訓は『欲を出さなければ逃げ回る必要も無かった』……ってことだな。」
すると突然、彼女は杉元さんの目の前に小さなものを差し出した。よく見るとそれは…
「杉元、ウサギの目玉食べていいぞ。」
イーッなんて奇声を上げながら、彼の目はさらに死に硬直した。確かにこんなもの出されて驚いてしまう。正直私もびっくりした。
「何だその顔。目玉はその獲物を捕った男だけが食べていいものなんだぞ。」
「男…ね。私は女なので遠慮しておきます。」
「いいのぉ？いいのぉぉ？」
またもや脳みそを食べた時のような顔になり、目玉を口に運ぶ。口に入れた瞬間ブチンという音を立てて目玉が潰れ、彼は思わずえづいてしまった。しかしそれを見つめるアシリパさんの威圧感もなんとも言えないインパクトがあった。
「うまいか？ヒンナか？」
「ヒンナ」
「よしよしもう一個あるぞ」
それはそれとして
干してあったエゾマツタケとオシロイシメジ、そして肉にプクサを混ぜて団子にしたものを煮込んだ料理を振舞ってもらった。杉元さんはハフハフと息をしながら美味しそうにそれを頬張る。
「う…うまいっ。リスより脂っこくなくてあっさりしてるな。l
「まぜたにんにくがいい香りだし、キノコ類も美味しいです。」
この寒い環境にはぴったりの一品だった。
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作者名：ほほいほい | 作成日時：2021年8月26日 23時
