国際線ターミナル ページ25
翔君と初めて喧嘩して勢いのまま家を飛び出し、辿り着いたのは翔のお墓では無く… 今まで両親や翼の迎えか見送りにしか来たこと無かった国際線ターミナル。沢山の人々が行き交う中、ニューヨーク行きのチケットを片手にベンチに座る
搭乗開始まであと15分。このチケットで向こうに行ったらどうなるんだろう。右も左も分からない土地で、スマホも何も無い。視線を落とすとキラッと光が反射した黄道十二星座の腕時計と彼とお揃いの指輪
─俺が好きになったのは、マイク前でまるでキャラがそこに居るような錯覚を起こす芝居を魅せる、上野Aだ！焦って無茶して完全に声が出なくなっても知らねぇからな！─
ド正論だよ…翔君は心配してくれてるだけ、悪いのは焦って声枯れるまで無茶なリハビリしてるあたし自身だって事も分かってる…バカだな、あたし。焦って自分で壊して…本当に馬鹿。後悔先に立たずとはまさにこの事…
それでも…誰かとこんなに大きな喧嘩をしたことがなくて。どうしていいか分からない。立ち止まればいいのか進めばいいのか…あの家に帰っていいのかさえ見失った。このまま進んだら…もしかしたらもう彼には会えないかもしれない…何てぼんやりと思いながら、立ち上がり数メートル進んで電光掲示板を見上げると搭乗開始のアナウンスが聞えて、複数人が搭乗口に向かい始めその波に押されるような形で搭乗口近付くとグイッと右腕を引かれた
「なに、してんだバカ！！」
腕の先を見ればさっきまで思い浮かべてた愛しい人が息を切らしていた
『しょ、くん』
「財布しか持たない身一つで、ニューヨーク行って…ご両親の元に、たどり着けるわけないだろ！日本ほど治安いい訳じゃないんだから、考えろ、バカっ！」
彼から出てくるのは全部あたしを心配して叱ってくれてる言葉。あたしの右腕を掴むその手は震えていて、彼は涙目だった
『…ごめ、なさい』
謝ると彼の香りに包まれて、聞こえる呼吸音と心音と彼の震える手に後悔が募る
「俺も、ゴメン。キツいこと言っちゃった…心配してるのに、傷付けた…」
翔君は悪くない、ブンブンと首を振ると大きなため息が聞こえ、あたしを包み込む腕の力が少し強くなった
「間に合って良かった…もう、Aちゃんに会えないかと思った…」
耳に届く少し震えた声。この人はこんなにあたしを心配してくれてるのに…あたしは結局自分の事ばっかり…本当にバカだ
焦って、もがいて…無茶をするのはもう辞めよう…
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 19人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：福招猫 | 作成日時：2021年9月20日 23時
