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喧嘩 ページ23

『も、いいっ』
「Aちゃん!!」
その日初めてAちゃんと喧嘩した。原因は彼女の焦りとリハビリ。仕事から帰ると、玄関には靴も鍵も財布もあるのに姿がなくて。探すとAちゃんは防音室の中で少し声を枯らしながら必死に外郎売を音読していた。早くマイク前に戻りたい彼女が俺には無理してるようにしか見えなくて…つい酷いことを言っていて。頭に血が上って気が付いたら泣きそうな顔した彼女が背中を向けて家を飛び出していった
「…やっちゃった、」
ソファーに座ると足元でナイトが「どうしたの?大丈夫?」と言いたげに見上げて来るので大丈夫と一撫でする。ため息を吐くと自分の中でメラメラしてた炎がシュッと鎮火していくのが分かる
昔から、怒ると皮肉を言ったり毒づいたり…言い返されたら更に上を行く言葉で批難して、相手が傷つくって分かってても…そうやって怒りを解消しちゃう…典型的なAB型気質の怒り方
謝ろうと彼女のスマホを鳴らすも扉が開いたままの防音室のテーブルで鳴っていて、更にため息が出た。どうしよ…探して謝らなきゃ…
ソファーの隣に彼女のリュック、玄関には車の鍵…財布だけがない

彼女が行きそうなとこが他に思い浮かばなくて、辿り着いた翔さんのお墓には彼女の姿はなかった。護るって言ったのに…心配してたはずが喧嘩になって結局言葉で彼女を傷付けた。言葉を生業としてるのに、その言葉で1番大事な子にあんな顔をさせた…
「おや?おひとりですかな?」
急に聞こえた声に振り返るとお寺のご住職がいらっしゃった
「あの彼女…Aちゃんここに来ませんでしたか?」
「今日は見てないと思いますが…どうかなさいましたかな?」
「いえ…」
「我々僧侶は古くよりお釈迦様の「人が生きやすくなるための心の在り方」を広く伝えるのが大きな役割の一つなのでその教えに沿って、人々の相談に乗ってきました。誰かに話す事で気持ちの整理も出来ましょう」
お坊さんって不思議なもので…この優しいお声と声優とは違う声の出し方に素直に打ち明けた

「喧嘩ですか…彼女への心配が大き過ぎて行き過ぎた言葉になってしまったんですな…」
「はい…」
「言葉で傷付けることも包も事も容易に出来てしまう…上野さんを見つけたら言葉の包帯で癒してあげてください」
「はい…」
「とはいえ行き先が掴めませんねぇ…」
「携帯も車の鍵も家にあって…他に彼女の行きそうなとこが思い浮かばなくて…」








急に思い付いて、2人に喧嘩させたかっただけです

同期の観察眼→←家に帰ろう



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作者名:福招猫 | 作成日時:2021年9月20日 23時

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