兄離れ ページ18
持ってきてたUSBに翔の作った曲をコピーしている間、部屋を出て半地下にある防音室に入る。両親の楽器と一緒に自分が昔吹いてたソプラノ、ひとつ開けてテナー・バリサクがスタンドに掛けて並んでいる。棚のケースからリードを出して咥え湿らせたあとテナー装着する。アルト以外はこの家を出てから初めて触る…
ストラップを首に提げて構え、何度も演奏した怪盗紳士の曲を奏でる。目を閉じれば、頭の中では翔の伴奏が聞こえるのにやっぱり、怖くない。リードミスもない
記憶の中の翔とセッションが終わると拍手が聞こえた。目を開け振り向けば、いつの間にかドアのところにいた翔君で
「すげぇ、ルパン生演奏だ」
と嬉しそうだった。そういえば翔君ルパン好きだったな
「いつもAちゃんが吹くサックスと違うよね?」
『あっちは、あると。こっちはてなー』
「こっちの方が低いんだ?」
『うん。このきょくは、あるとより、ひくくふかみのある、てなーがあう。あるとには、おとなのいろけが、たりない』
「大人の色気?」
『そぷらのが、あたしらだとして、あるとはなかむらさん、てなーはつださん…みたいな』
「だいぶ違ぇな」
『ばりさくっていう、もっとひくいのは…ほーちゅーさんとかかな』
「あー…なるほど、大人の色気ってそう言うことか」
一つ一つ指をさして言ったあと、マッピからリードを外してテナーサックスをスタンドに戻す
『できた、のかな』
「翔さん離れ?」
『うん。あんなに、こわかった、あのへやで…しょーの、かくした、ものをさがして…しょーが、のこした、めっせーじも、みつけられた…』
それにあの日翔が着てたもの持ってたバッグまで触れた。もう少し取り乱すかと思ったけど…冷静すぎる自分に怖いとすら思う
『それとも、もう、しょーのこと…どうでもよくなっちゃった、の…かな。しょーといっしょに、かぞえきれないくらい、なんども、あわせたきょくも、このばしょも、こわくなくなった』
苦笑いをしてカリカリと頬掻く。たった10年ちょっとで双子の兄の死がどうでも良くなるなんて…薄情な妹だと翔は呆れるだろうか…
「それは無いでしょ。どうでも良かったら、翔さんのメッセージ見つけられてないだろうし、そもそも曲さえ見つからないよ。それだけ前を向けるようになったって事じゃない?あの事故に囚われずに、1歩1歩でもしっかり前に進んだ。だからこの場所で音を楽しむ余裕が生まれたんじゃない?」
『まえをむける、ように…』
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作者名:福招猫 | 作成日時:2021年9月20日 23時