9Ｐ〔ナインピース〕に！ (ページ49)

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番外編松岡さんとページ49

笑多の部屋で空になったウイスキーのボトルがゴロンっと転がった
『あんね、僕ホンマに面白いこと言えんくて…メンバーに迷惑掛けっけん9P辞めようかち思っててん』
この部屋の家主である笑多はベソベソと涙を流しながらグラスを傾けた
「そんな事思ってたのかよ」
『バラエティで面白いこと言えんやつメンバーにおっても足引っ張るやん…』
カランっと氷が音を立てる。コイツは9Pが大好きだ。番組が始まってから、今までモノトーンで纏められてたコイツの部屋には他のメンバーの色の花が飾られるようになった
「別にそんな事言われた訳じゃないだろ」
『皆いい子やし言わないかなだけじゃろ…』
たまに現場で一緒になる9Pメンバーに笑多の事を聞くと、いい人だと言う。最初は壁があったけど、それが無くなれば嫌いになれない、と
それでも昔から他人と付き合うことが苦手で仲良くなるにも時間を要する笑多は、他者にネガティヴな感情しか持たれていないと思ってる面が多くて。他の現場でも、演者が楽しそうに話していても輪に入ろうとせず寂しがり屋のクセにフラっと独り喫煙所行ったり、自販機前で時間を潰してたりする
極度の人見知りで他人が怖いコイツは、同じ事務所人間か気を許した数少ない人間が居ない現場では、残念ながら芝居面以外の評価が低い
『おじちゃんに言うたら「おもんない、3点」やて』
そりゃそうだ。最初9P話がこいつに来た時、尾地さんが「笑多がバラエティってどうだ」っと俺に相談してきた。確かに不安はある。でもコイツは極度の人見知りなだけでちゃんと付き合えば全然悪いやるじゃないし、名前の通りよく笑う。すげぇ仲間思いで、誕生日とか絶対プレゼントくれるし、何なら人によってケーキ作ってたりするらしい。俺は甘いの苦手だから作ってもらった事ないけど
この業界で笑多そーいう面を知ってる人は少なくて…だからこそ尾地さんはこの話を推したいんだって言った。俺もそう思うし、笑多が凄いんだって知って欲しかった。そんな尾地さんがあっさりそんなの分かったって言うわけが無い
いざ番組配信が始まってからみたら、俺たちの期待を遥かに上回って初回の自己紹介からコイツはアクロバットを披露して見せた…いや、魅せた
「…なぁ笑多、それ9Pメンバーに言ってみれば？」
『メンバーに？』
空になった笑多のグラスに氷とミネラルウォーターを入れて渡す
「いい子ならお前が悩んでるならちゃんと答えてくれるんじゃない？」
きっと笑多は9Pを辞めない。辞められない