飛花落葉のように。【原神】 (ページ45)

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なあ、モラクス。と、そう暗い声が落ちる

「うれしいか」

問うでもない言葉の指す意味を鍾離は図りかねた。けれどもそうだ。そうだなと頷いて見せる

「あぁ。そうか」

納得したような。納得させるような。諦めたような返しと、刺すような微笑みだった。口元だけが歪になってずいぶんと不格好だ

それに気付いた彼女は己の笑顔は失敗したのだと悟って、取り繕うのをやめた。けれど素直に「さみしい」なんて「死んでくれるな」なんてどうして言えようか
だってこの男は今まさに願いを叶えて、それで、うれしいと

……そう、いったのに

「───」

邪魔はしたくなかった。せめて今からだけでも最後まで協力してやりたかった。昔の私は、途中で投げ出してしまったから

だから───

Aは片膝を付く。鍾離が驚きに息を呑んだ

「なにを、」

「きみに、……君に、最大の敬意を」

その白い手が拱手の形を取る。Aがこのような姿勢をとる姿を鍾離は初めて見た

彼女は望んで膝をつくなんてことはしない。最大の、と言うのであれば頭すらつくべきだが、それはきっと、何があったとしてもしないだろう。彼女は魔神だから。それを正しく理解しているから。己の頭を簡単に下げたりはしない

それなのに膝をついている。言葉通り彼女の最大の敬意を、今、この場で示そうとしている

信じ難かった。鍾離の記憶にいるAは高い矜恃をもつ魔神だ。気に入らないことは認めないし、自分の意思も曲げない
再会してから丸くなったとは感じていたが、これほどとは思わなかった。会わぬ時間の中で、なにが彼女を変えたのだろう

「長きにわたる勤め、お疲れさま」

岩王の功績は多く、それに払ってきた対価も彼の努力もAは知っている。だからこそかける言葉を迷ったが、ならば単純なものでいいと思った。それだけで、友には伝わるだろう

鍾離の動揺が僅かに空気を揺らす

「なぜお前は……」

つぶやいて、己の手で口元を覆った

なぜお前は、いつも核心をつくのか
なぜ本人すら望んでいると気付かないような言葉を投げかけられるのか

前触れもなくこんなことを言う彼女のことだ、投げかけるよりも投げつけるの方が「らしい」だろう。それでも胸に、じわりとあたたかみの広がる心地だった