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──朝
前回の授業で出された課題についてエペルと答え合わせをしていたAは、隣へ腰掛けたジャックを見て目を丸くした。おはようと紡ぎかけた言葉が止まる

孤高の一匹狼と思えた彼とは、このひと月でかなり打ち解けたと思う。耳と尻尾へ興味を示したのが悪かったのか、初めは近づかれるのも多少厭んでいた彼だが、今となっては尻尾に触れるのも許可してくれていた

常に、とは言わずとも、一緒にいる時間はエペルと並んで多いと思っていたが…それははじめて見る姿だった


「…なぁに、その怪我」

──まさか、顔に湿布を貼って登校とは


もしかして喧嘩? とエペルが隣から顔を出した。心做しかその瞳は輝いて見える

NRCはなぜかガラの悪い生徒も多く、生徒同士の喧嘩が度々起こるという。男子校であるのも尚更だった。まさかジャックが─とも思えないが、実直な彼なら場合によっては有り得ないことでもない


「…あぁ、少しな」

問われたジャックは思い出したように顔に手を遣った
昨日の出来事を思い出す。あれはケジメをつける為のもので喧嘩という類いではなかったが、拳を使ったのは事実だ。ただ自寮の厄介な件が絡むこと故に、今ふたりに全て話すにはいかなかった


曖昧に誤魔化すように、喧嘩かという問いに首肯すればエペルはよりいっそう瞳を輝かせた。かっこいい! と顔が言っている

こういう、所謂「荒事」と呼ばれるものに、憧れともとれる反応を彼が見せるのはなぜか─と少し疑問に思って、しかしそれを問うことはない。エペルの一方で顔を陰らせたAが視界に入ったからだった


喧嘩などと怖がらせたかと思うも、それを聞くのも憚られた。聞いて、「怖い」と言われるのはなんだか嫌だと思った

ジャックは手が早い方ではないが、拳で話し合うのも方法のひとつだと思っている。けれど彼女は違うだろう。拳などと野蛮な方法を取らずとも、その巧みな話術できっと何とかしてしまう。彼女の「話し合い」の選択肢に「拳」などないのだ


そう思うと、己とAの間に見えない壁が出来てしまったようで──いや。元からあったはずのその壁を忘れてしまっていたのだと現実を突きつけられた気分で、弁解する必要もないことなのに、何か言わねばと思ってしまって

ジャックは、からりと喉の渇く感覚がしていた

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藤宮(プロフ) - 紅さん» ありがとうございます〜!この小説をどうぞよろしくお願いします! (8月17日 23時) (レス) id: 70681114dc (このIDを非表示/違反報告)
- とっても面白いです!!続き楽しみにしてます! (8月12日 0時) (レス) @page25 id: b3496c9ef0 (このIDを非表示/違反報告)
藤宮(プロフ) - 晏昊さん» ありがとうございます。長らくお待たせしましたが亀更新で頑張ります〜! (2023年3月6日 0時) (レス) @page21 id: 73feed36fe (このIDを非表示/違反報告)
晏昊 - 好きすぎて一気見しちゃいましたw続きがすごく気になります!頑張ってください!待ってま〜す!!! (2022年5月3日 1時) (レス) @page21 id: 92be24dccc (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:藤宮 | 作成日時:2022年1月5日 2時

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