検索窓
今日:23 hit、昨日:33 hit、合計:43,761 hit

86・ ページ37

.



最後にこちらがしてやるはずが、しっかりやり返されてしまって、彼女はつまらなそうなまま鉢を抱え直す


「……どうも」

一度目よりも更に無愛想な声が返ってきたが、男は一度目よりも楽しげに「お易い御用です」と返事をした
ではと今度こそ踵を返して、鉢を両手に突っ立っている彼女を横目に植物を出る



そこから数歩進んだ先で、はあぁぁ…と盛大な溜息を吐いた



──何も、なにも上手くいかなかった
箱庭育ちの甘ったれなんてバカに違いないと思っていたのに。その脳内に詰まっていたのは藁でも花でもなく、ちゃんとした脳味噌であったわけだ

舐めていた、完全に。彼女を、いや、神の子を。まさか僕の─いち生徒のいち取引、彼女の言う通りに言ってしまえば、たかが取引が、最終的には国すら出てくる案件になるとは
あの立場を逆手にとって断りにくくしてやったつもりが、立場を利用されたのはこちらと言うわけだ

そも、彼女はひとりでいること自体少ない。故に早々に取引してしまいたかった。ディアソムニアの彼らにも気を使わねばならないし、今こそがチャンスだと思ったというのに


急ぎすぎてしまったかと呟く


それでも焦りはなかった。脅しは効かなかったが、まだ挽回の余地はある。彼女と話す機会もすぐにやってくるだろう
まずはそう、次の期末テストで──いや、その前にマジフト大会だ。我が寮はあまり良い順位は取れぬだろうが、それよりも露店で上々の売上を納めることが重要だ


くいっと一度、眼鏡を押し上げる。取引は出来ずとも、あまり悪くない気分のまま彼はその場を後にした






──はぁ、とAは息を吐く。ひとりぽつんと残った園内で、その重い鉢を今度こそ元の場所に置いた


とんだ災難であった。名乗りもせぬ男に脅され取引を持ちかけられるとは、この学園にはどうして一癖も二癖もある者しかいないのかと、己のことを棚に上げて思い耽る

しかしまぁ最後は言い逃げのようにされたが、こちらも散々言ってやったのだから、これに懲りて次はないだろう


人はそれをフラグと言うが、彼女はそれに気付かず安堵した。クルーウェルに言われた通り水もやらねばと、水道を探しに周囲をぐるりと見渡す


植物園の死角からその様子をじっと観察するように眺めていた影にも、終ぞ、彼女が気付くことはなかった

87・手向けるは愛の弓→←85・



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 9.9/10 (116 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
443人がお気に入り
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

藤宮(プロフ) - 紅さん» ありがとうございます〜!この小説をどうぞよろしくお願いします! (8月17日 23時) (レス) id: 70681114dc (このIDを非表示/違反報告)
- とっても面白いです!!続き楽しみにしてます! (8月12日 0時) (レス) @page25 id: b3496c9ef0 (このIDを非表示/違反報告)
藤宮(プロフ) - 晏昊さん» ありがとうございます。長らくお待たせしましたが亀更新で頑張ります〜! (2023年3月6日 0時) (レス) @page21 id: 73feed36fe (このIDを非表示/違反報告)
晏昊 - 好きすぎて一気見しちゃいましたw続きがすごく気になります!頑張ってください!待ってま〜す!!! (2022年5月3日 1時) (レス) @page21 id: 92be24dccc (このIDを非表示/違反報告)

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:藤宮 | 作成日時:2022年1月5日 2時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。