76・彼こそは商売人 ページ27
.
両手で植木鉢を抱え、その重さに顔を顰めながらもせっせと足を動かすAの耳に「あら」と心地いいソプラノボイスが届く
「愛しい子。またそれを持っているのね」
声のした方を見上げれば、精巧な彫りの少し古びた額縁に彩られた美しい女性がそこにいた。彼女はこの学園の廊下に飾られた喋る絵画の内のひとりである
クルーウェルにこの薬草を届けに来たときも彼女とは会ったなと、Aは眉を下げて微笑んだ
「レディ。そうなんです。先生ったら人使いが荒くて困ります」
「まあ、ふふ。あの子と仲良くしているのね」
「そう見えますか?」
「えぇ、とても」
絵画は楽しそうに笑っていた。彼女は当然クルーウェルの学生時代も知っているのだろう、その母が子を見守るような目線は素敵なものだが、仲良く見えているのならば心外である。都合よく雑務処理に使われているだけというに。けれどAとて彼は嫌いではない。生徒の質問に根気強く解説する人だ。こちらを蔑ろにしているのではないのだろう
「可愛がられているのよ、あなた」
「…そうだとよいのですが」
まぁ、そう思うことにしておくか
Aは納得の素振りを見せ、鉢を抱え直して「ではまた、レディ」と挨拶をし先へ進む。背中には「足元に気をつけてね、愛しい子」と声がかかっていた
彼女たち喋る絵画はAを愛しい子やら神の子やらと呼ぶ。そう言った呼ばれ方は好みでないが、 彼女たちは敬意を込めて呼んでいると知っているので、Aもそれに倣い、レディや紳士殿と呼んでいた。そういった呼ばれ方をすると、彼女たちは決まって照れたように微笑むのだ
喋る絵画には悪戯好きも多く人を惑わせる者もいるが、今のところそんな被害にはあっていない。この世界の神を敬う精神は、絵画にも通用するようである
「──失礼、そちらのお嬢さん」
もうすぐで植物園に着く、といった頃合で背後から声を掛けられた
振り向いたそこには細身で眼鏡を掛けた、輝くシルバーブロンドのいかにも知性的な青年がいた。そのスカイブルーの瞳には自信の色が垣間見える
「なんでしょうか」
「いきなり声をかけて申し訳ありません。お持ちの物がとても重そうに見えたもので」
──よろしければ僕がお手伝いしましょうか
人差し指で眼鏡の縁を押し上げそう口角を上げた彼は、やはり自信ありげに見えた
443人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「ツイステ」関連の作品
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
藤宮(プロフ) - 紅さん» ありがとうございます〜!この小説をどうぞよろしくお願いします! (8月17日 23時) (レス) id: 70681114dc (このIDを非表示/違反報告)
紅 - とっても面白いです!!続き楽しみにしてます! (8月12日 0時) (レス) @page25 id: b3496c9ef0 (このIDを非表示/違反報告)
藤宮(プロフ) - 晏昊さん» ありがとうございます。長らくお待たせしましたが亀更新で頑張ります〜! (2023年3月6日 0時) (レス) @page21 id: 73feed36fe (このIDを非表示/違反報告)
晏昊 - 好きすぎて一気見しちゃいましたw続きがすごく気になります!頑張ってください!待ってま〜す!!! (2022年5月3日 1時) (レス) @page21 id: 92be24dccc (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:藤宮 | 作成日時:2022年1月5日 2時