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懐かしい絨毯をもう一度見れたのは良かったが、Aにとっては非常にまずいことになっていた
「A?どうしたんだ?」
「ど、どうもしてない。大丈夫」
__彼女は高い所が苦手だ
上手く笑ってみせたつもりがただの愛想笑いになってしまい、カリムは益々心配そうにした
外で月を見ようというのは、建物の外で地に足をつけて見るのだと彼女は思っていたが違った。絨毯に乗って高所からより近くで月を見ようという事らしい。確かに昔は一緒に絨毯に乗って月を見たこともあったと思い返す
あの日は一際大きな満月の日で、Aはあんなに近くで月を見たのは初めてだった。あの時の感動を、景色を、今でも鮮明に憶えているほどに、美しかった
ただその三年後。彼女が十歳ほどの時。そう、あの時も月を見ようとしていた。彼等との思い出が懐かしくて、城は寂しくて。月を見ようとバルコニーの手すり壁に座っていた。今では何故そんな危ないことをと思うが、おそらくあの日のように近くで見たかったのだ
そして彼女は、突き落とされた。愛し子の暗殺。よくある話だ。毒を盛られることは多少あっても、城への侵入は容易ではない為、直接的に手を出されたのは初めてだった
はじめて、人の悪意に真正面から晒された。落ちるのは一瞬だったのに、その一瞬がやけに長くて。あの高さが、押された先のその人の殺意の目が忘れられない
美しかった月の景色を塗り潰すように、恐怖が染み付いてしまった
___けれど
「カリムくん」
「ん?」
「絨毯に乗るのは久しぶりで、少し怖いから…服を握っててもいい?」
やっと学園に来たのだから、やっと外に出れたのだから。この学園にいる間は彼と対等な友人でいたいと思ったのだから、卒業した後もカリム達と会えるとは限らないから。今できることをできる内にしなくては、きっと後悔してしまう
もう一度、あの月が見たいのだ
「服か………あの時は、手を握ってたよな」
「え?…そうだっけ」
「絨毯なんて初めて乗るから、絶対落とさないでって何度も言ってた」
「……覚えてないや」
彼は思い出を慈しむような優しい声でそう言って、Aの手を取った。その目で、真っ直ぐに彼女を見つめる
「絶対に、危ない目には合わせないって約束する」
___任せてくれ
その言葉が、彼が、十年前の思い出と重なって見えた
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藤宮(プロフ) - 紅さん» ありがとうございます〜!この小説をどうぞよろしくお願いします! (8月17日 23時) (レス) id: 70681114dc (このIDを非表示/違反報告)
紅 - とっても面白いです!!続き楽しみにしてます! (8月12日 0時) (レス) @page25 id: b3496c9ef0 (このIDを非表示/違反報告)
藤宮(プロフ) - 晏昊さん» ありがとうございます。長らくお待たせしましたが亀更新で頑張ります〜! (2023年3月6日 0時) (レス) @page21 id: 73feed36fe (このIDを非表示/違反報告)
晏昊 - 好きすぎて一気見しちゃいましたw続きがすごく気になります!頑張ってください!待ってま〜す!!! (2022年5月3日 1時) (レス) @page21 id: 92be24dccc (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:藤宮 | 作成日時:2022年1月5日 2時