喜雨の手助け / 空閑遊真 ページ9
･
＿＿＿好きです。
誰も居ない放課後の教室。彼女は緊張からか、下を向いたままそう言った。
夕焼けの光が柔らかくおれたちを照らす中、ここだけ時間が止まっているようで。おれはただ彼女の顔を見つめることしか出来ない。
「付き合って、ください」
「香椎、」とおれが名前を呼ぶと、その小さな肩は大袈裟な程に跳ね上がる。
きっと勇気を出して言ったのだろう、体の横で握り締められた手は小刻みに震えていた。
どうすればいいのか分からなかった。
彼女のことは嫌いじゃない。寧ろ好きな方だと思う。
転校してきたおれに色々なことを教えてくれた彼女は、今やクラスで一番仲のいい女友達で。
困っている人を放っておけない。そんな優しい彼女が、おれにとって大切な存在であることに間違いはなかった。
だからこそ、分からないのだ。
おれは彼女を友達としてしか思っていないのか、はたまたそれ以上に思っているのか。
それ以上に、思えるのか。
つい目の前の彼女を放ったまま、深く考え込んでしまう。
おれが一向に何も言い出さないのを見て、彼女の瞳は悲しげに揺らいだ。
「ごめんね、急にこんなこと言って……」
小さく吐き出された声に、おれは顔を上げる。
忘れていいよ。無理やり口角を上げ、でも耐えきれずに滲んだ涙が彼女の頬を伝うのを見て、思わず息を呑む。
おれのせいで彼女がそんな表情をしているのだと思うと、胸が締め付けられるように苦しかった。
「……こんな時間まで付き合ってくれてありがとう。また、明日ね」
そう言って、逃げるように後ろを向いた彼女の手を掴む。
好きとか嫌いとか、今はどうでも良かった。
ただ、彼女にあんな顔をして欲しくなかった。
いつものように笑って欲しかった。
だからほとんど反射で口を開く。
「いいぞ」
「え、」
窓から入ってきた風が、ふわりとおれたちの髪を揺らした。
「付き合うか？おれたち」
その言葉に目を見開いた彼女が、ワンテンポ置いて「いいの？」と掠れた声を出す。
それに強く頷けば、彼女は徐々に頬を赤く染めていって。
ありがとう、と涙を拭いながら微笑むから、おれは言ってよかったなと思った。
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ピンス(プロフ) - 待ってます‼︎ (11月23日 20時) (
レス) id: 18a9383861 (このIDを非表示/違反報告)
藤丸(プロフ) - ピンスさん» ありがとうございます！これからもお楽しみいただけるよう頑張ります。 (11月15日 22時) (レス) id: ad8b4578d9 (このIDを非表示/違反報告)
ピンス - ワートリの短編集好きなので楽しみにしてます！ (11月14日 22時) (レス) id: 18a9383861 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：藤丸 | 作成日時：2023年4月11日 23時
