18話目 ページ18
「人の顔を見る度にA、Aってうっせぇんだよ、あいつは。」
「元気かとかやたらと聞いてくるからね。」
「そう…なんだ。」
がっしりとした体型で背がとても高く、浅黒い肌に素朴な笑顔で悪い人には見えないけど…ちょっと。
「さ、さぁ!仕事、仕事。これ、Aのじゃないかと思って。」
「△▲公園のトイレから見つかった。」
源が透明のビニール袋に入ったものをテーブルの上に置き、説明を続ける。
「女性トイレの個室内に張り付けられていたらしい。」
「うん、私のに間違いない。女性トイレって事は犯人は女性?」
「そ、れは…。」
源は何かを言いかけて口ごもると私から視線を外した。
「Aさ、何か思い当たる節とかない?会社内でトラブルとか。」
「会社で?特に無いと思う。」
平穏で皆優しくて、仲が良くて…トラブルなんて入社したばかりの時に起こしたヘマしか思い当たらない。
「ふ…ん。そう…かぁ。」
「源、さっきは何を言おうとしてたの?」
私の問いに答えず、「これは証拠品として保管する。」と言ってビニール袋をカバンへとしまい込んだ。
「また何かあったら話聞きに来るからね。」
「え、もう来なくて良いよ〜。お腹減ったし、昼休憩は潰れ…。」
「俺らからだ。これ食って昼からも頑張れ。」
味気ない無地の紙袋をテーブルの上に置き、「じゃあな。「ね。」」とドアを開ける。
「あ、ありがとう。」
二人は頷いて軽く敬礼をして帰っていった。
「何…かな?」
紙袋を覗くと中には栄養ドリンクに栄養補助食品のビスケット、あんパンに常温保存牛乳が1本。
「張り込み中の刑事さんじゃないんだから。」
少し形がいびつなあんパンを開け、笑いながらかじりついた。
「はぁ…ただいま。」
「おかえり。疲れた?元気ないね。」
ソファに座っている私に背中から抱き付き、うんうんと頷く。
「あ、お昼ご飯食べたよ。ドラマの刑事さんのイメージそのままで笑っちゃった。」
「わざと選んだ。今時、張り込みであんなのは食わない。」
フッと楽しそうに笑い、私から離れた。
「あ、A。明日…買い物に付き合ってくれないか?」
「買い物…?良いけど。」
「悪いな。仕事終わったら連絡をくれ。会社まで迎えに行く。」
珍しい…いつもなら私や剛と買い物に行くと時間がかかるって嫌がるのに。
機嫌良さそうに微笑む横顔に、私は小首を傾げた。
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作者名:fugurifurifuri0 | 作成日時:2020年9月9日 15時