08:03 | 5 ページ10
『…ハッ!』
太陽が中天に昇る頃になって、Aはようやく覚醒した。起きた時から握りしめられたままの携帯電話をまじまじと見つめる。
それにしても…変な夢だった。
電話越しに告白されて、普段なら笑い飛ばしてしまうのにあろう事か堂々と返事をしてしまった、リアリティーのある、恥ずかしい夢。
『……まさかね』
夢に違いないと思いつつも、携帯を握る手は無意識に着信履歴の方に動いて行く。
【08:03 着信 赤井秀一】
嘘でしょ。
いや、あの人が酔っ払った勢いで電話越しに告白するなんてそんな。しかも自分も寝惚けてたとはいえまともに相手してしまったとかそんな。
恥ずかし過ぎて信じたくない。だが悲しいかな真実はいつもひとつ、証拠は目の前にでかでかと表示されているのだ。
『……』
…
深夜、月が中天にのぼる頃。
赤井は取っていたホテルの部屋で目を覚ました。起き上がろうとした時、酒のせいで頭痛が走った。
それのせいで、同僚達に強引に押し込まれた数時間前の宴会を思い出す。人気店だったが何故か料理が口に合わず、酒ばかり飲み進めていたら普段より数段早い段階で酔いがまわってしまった。主役が何やってんだか!とゲラゲラ笑い転がる酔っ払い集団から抜け出してタクシーに乗り込んだ所までは記憶に残っている。
それにしてもおかしな夢を見た。
酒のせいで朧気な記憶しかないが、好きな女にあろうことか電話越しで告白するという、誰にも言えないような夢。夢の中の自分に先を越されるとは失笑ものだな。電話越しの彼女の声は、ただ夢にしては異様なくらい耳に残っていた。
「……まさかな」
携帯を手に取り、発信履歴を見た。
【19:03 発信 神崎A】
「…………」
───ヴーッ!ヴーッ!
意味を理解すると同時に、携帯が鳴った。
『わ、私です……数時間前の電話の事なんですけど』
赤井は手で顔を覆った。
知られてしまった。最も知られたくない相手に。自分がどんな顔してるか分からないが、これが電話でよかったと思った。
「……すまない。酔ったせいで記憶が無いんだ」
『は!?じ、じゃあ私の返事も、覚えてないって事ですか!?うわっ恥ずかし……私、今から
電話が切れた。
赤井は数秒固まっていたが、耐えきれず吹き出して笑いだした。
想い人が告白の返事をする為だけに会いに来る。こんな贅沢を味わうのは自分くらいだろう。
…
このあと、二人がどうなったのかは、また別のお話。
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桜(プロフ) - 全部面白い!続き読んで見たいです!皆さん、頑張って下さい! (2018年9月24日 20時) (レス) id: 4b63d11e04 (このIDを非表示/違反報告)
i(プロフ) - 正直、どストライクです…!時間ごとにそれぞれの贅沢が詰め込まれていて、読んだことのない作品の主人公にもとても惹かれるものがありました。また時間を見つけて全ての作品を読ませていただきます。この上なく贅沢な時間をありがとうございました。 (2018年9月24日 17時) (レス) id: 4ee63399c0 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:SNYZ | 作者ホームページ:https://twitter.com/nnn_zcn
作成日時:2018年9月24日 16時