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ビールと突き出しで一息つくと、薄くカットされた柔らかなローストビーフが和えられたサラダが運ばれてくる。
柔らかな歯ごたえと食べやすい薄さからは予想外のぐっと染み込んだ香りが鼻を抜けていき、「今日はあまり飲まない」と言っていたはずの雨切は前菜が運ばれてくるとスパークリングワインに切り替えていた。
「降谷さんと飲んだことあります?」
「あの人は肝臓にもピラニアを飼ってる」
「肝臓にも」
「よく食べるしな」
「体内にアマゾンでも隠してるんですかね」
「それ、本人に言える日がくるといいな」
ワイングラスの縁で雨切が「恐ろし」と薄く笑う。
喉元を通る炭酸の軽い圧迫感と、アルコールのすんとした匂いが気持ちいい。
「そういえば、牧野が気にしてたぞ。雨切は酔うとどうなるんだって」
「牧野?」
「俺の部下の」
「オールバックと髪色明るい方、どっちでしたっけ」
「オールバックの方だ」
あぁ、と顔を思い出したらしい。雨切がワインを飲み干して頷く。
「あの人にこの前、夕食誘われましたよ」
「そうなのか」
「えぇ。来週末だったかな。飲みに行く予定です」
失礼します、と店員が皿を置いてく。霜降りの牛を見て、雨切は少し考えてから赤ワインを、と店員に告げた。
「妙に嬉しそうに俺に聞いて来たからな」
「はは、やっぱり『そういう』つもりなんですかね」
「そりゃそうだろう」
風見が肉を好きに焼きながら、手軽に答えた。ふぅん、と雨切からの何の気ない相槌が、鉄板の音に混じって耳に届く。
店員が赤を届けに現れ、すぐ消えた。
軽く火を通すだけで食べ頃になる霜降り牛を二人でさらりと食べあげ、皿を空けていく。仕事柄、よく食べる二人は、きっと店員なら魅入ってしまうほどするすると口に入れては飲み込んで行く。
酒の力もあってかペースはゆっくりだが、食べっぷりは気持ちが良いほどだった。
「風見さんは、『そういう』人、いないんですか」
赤ワインをしれっと消したあたりで、雨切の不意な質問に風見は食べていた手を止める。
その質問に対する答えの落とし所が風見にはわからず、手に余る、感じたことのない妙な苛立ちに、雨切の前でいい具合に焼けていた肉を掻っ攫う。胸に、何かが支えたような気分だった。
「それ今食べようと」
「そういう奴はいない」
「何でちょっと怒り気味なんです」
「怒ってない」
「もうちょっとましな嘘つきましょうよ…………」
遠くで振り子時計が十二時の鐘を歌っている。
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桜(プロフ) - 全部面白い!続き読んで見たいです!皆さん、頑張って下さい! (2018年9月24日 20時) (レス) id: 4b63d11e04 (このIDを非表示/違反報告)
i(プロフ) - 正直、どストライクです…!時間ごとにそれぞれの贅沢が詰め込まれていて、読んだことのない作品の主人公にもとても惹かれるものがありました。また時間を見つけて全ての作品を読ませていただきます。この上なく贅沢な時間をありがとうございました。 (2018年9月24日 17時) (レス) id: 4ee63399c0 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:SNYZ | 作者ホームページ:https://twitter.com/nnn_zcn
作成日時:2018年9月24日 16時